スポーツウォッチといってもシャープでスタイリッシュなものが最近は人気があるようだが、いかつい感じでいかにも、というのがBRM(Bernard Richards Manufacture)の機械式高級スポーツウォッチだ。
高級腕時計といえばまずスイスのメーカーが頭に浮かぶが、以前はフランスにも時計メーカーは多かった。しかし、廉価品の普及でその数は減り、有名ブランドなどはほとんどスイスへ移転。わずかに残るメーカーは時計製造のメッカ、ブザンソンに多いなか、BRMはパリ北郊外ヴァル・ドワーズ県にアトリエを構える。
RER・A線セルジー駅から車で30分弱。田園の広がる職工地区にあるアトリエに着くと、敷地内の庭に置いてあるボートがまず目についた。このボートは「海のF1」と異名をとるパワーボートF1の仕様だ。10年前からカーレースなどのスポンサーになっているBRMは、2015年から海のF1の公式タイムキーパーに。多数のレースでスポンサーになっているおかげで、BRMブランドも知名度が上がってきた。
リシャール家は代々ジュエリーや時計を製造していた。ベルナール・リシャールさんも家業を継ぐべくパリの時計製造学校、ジュエリー専門学校に進み、1974年に家族経営の会社に入って、主に有名ブランド向けの時計を製造していた。86年に自分の会社BRMを創立し、05年には有名ブランド品製造をやめ、機械時計への情熱と趣味のカーレースを合体させた自社ブランドのスポーツウォッチに特化した。現在、社員23人、世界100ヵ国に販売拠点を持ち、年産2000個、年商300万ユーロの会社に成長した。
アトリエには14台のコンピュータ制御の自動旋盤機がずらりと並んでおり、約100種類ある各部品に応じて、長い金属棒(ステンレス、チタン、スチール、カーボンなど)をカットしてから、ひとつひとつの部品を自動旋盤機で削り出す。ひとつの部品の削り出しに1~8時間かかるというから、すごく手間のかかる作り方だ。「プレスで部品を作らないのは、うちの製品はお客の要望に応じて細かな部品まで換えられるようにするため。大量生産は目指していない」とベルナールさんは言う。ケース、文字盤、針、プッシュボタン、ブレスレットなど、BRMのウェブサイトでも店頭でも多彩なオプションを選べる。自分だけの1点ものがそれだけの手間をかけてできるのだから1個5千~1万ユーロの価格も納得だ。組立は別のアトリエでやっており、100%手作業の自社製造だ。
BRMはすでに2015年にインドネシアとマレーシアに出店したが、今年は台湾とバンコックに出店する予定だ。「腕時計の世界的な需要は飛躍的に伸びることはない。それなら、いいものをじっくりと作って今の規模の会社を維持していければうれしい」とベルナールさん。数年前に負傷するまでは自らもレースに参加するほどのカーレースファン。そのレーシングスピリットがBRMのもの作りへのこだわりに表われている。(し)