『MIA MADRE/私のお母さん』は、イタリアのナンニ・モレッティ監督の、巨匠の風格をたたえた逸品だ。
マルゲリータ(マルゲリータ・バーイ)は中堅の映画監督。アメリカから有名な俳優(ジョン・タートゥーロ)をローマに招いて新作を撮影中だ。夫とは別れて独り住まい。一人娘は夫のもとで暮らしている。気がかりは高齢で衰弱が進む母(ジューリア・ラッザリーニ)のことだ。入院中の母に総菜屋で買った食事を届けると、手料理を持って現れた兄(ナンニ・モレッティ)と鉢合わせする……。昼間は今が佳境の撮影現場で起こるナンセンスな出来事の数々を仕切り、夜は母の枕元で物思いに耽るのが彼女の日課になっている。母の老いを実感した日を思い出す。80歳を過ぎても車を運転していた母、本人はしっかりしているつもりでもいかにも危険だ。娘は母を叱り、代わりにハンドルを取るが、余りのやるせなさに車を壁にぶつけてしまう(涙)。一方、同じ車のシーンでも、街中の撮影で牽引された車を運転する振りをしながら芝居するジョン・タートゥーロの演技が変だと、前方の牽引車に後向きに乗って見守る監督は不満を爆発させる。が、俳優にしてみれば牽引車にさえぎられて前方が見えない中で演技を強いられているのだ(爆笑)。
笑いと涙が交互に観客をつかむ。今日を生きる自分、誰の親にも、そしてやがて自分にもやってくる”老い”、その先に見えるのは、やはり”人生の意味”についての問いかけだろう。母は永眠した。ラテン語の教授だった母の蔵書に改めて目を見張るマルゲリータは、弔問に訪れた母の教え子達によって自分が知らなかった母の一面に初めて触れるのだった。(吉)