日本でお年寄りを狙った「オレオレ詐欺」が頻発するようになってから久しくなる。しかし、フランスでも同様の犯罪はあるようだ。9月27日付のパリジャン紙が報じるところによると、そのレベルもかなり高いようだ。なんと、刑務所の中にいる囚人が同じ方法で多数のお年寄りから金を奪い取っていたというのだ。しかもこのアシュレフ・Sという36歳の囚人、すでに別の刑務所で受刑中に同様の事件を引き起こした挙句、2月にヴァル・ド・マルヌの刑務所に移送されるという前科まで持っている。
相手からうまく金をせしめるには、他人のふりをしたり、泣き落としや脅しなど、巧みな話術を駆使したりしなくてはならない。アシュレフ・Sの手口はこうだ。所内でスマートフォンをこっそり手に入れる。次にインタネートの住所録でパリに住んでいる高齢者の女性を探す。もちろん電話帳には年齢は載っていないが、女性の下の名前には生まれた年代ごとの傾向があり、男性よりも年齢を推測しやすいようだ。こうしてカモたちの電話番号を見つけたら、後は電話をかけまくり、こう言うらしい。「警察の者ですが、貴女のクレジットカード情報が盗まれています」。早く対処しようと焦る女性たちはカードの暗証番号などをうっかりもらしてしまう。犯人はその番号を使ってネット上で買い物を繰り返し、ポーカー賭博を楽しんだ。数カ月にわたって100人近い人が被害にあったという。
ただでさえ監視の厳しい刑務所内では、これだけの数の電話をかけ続けるだけで、看守や他の服役者に聞かれてしまいそうなものだが、どうやら彼は、他の囚人仲間たちにとって「コールセンター」の役割を果たしていたらしい。また、足がつく恐れがあるため、ネットで買った商品は、当然、刑務所に送らせることはできないが、塀の外の友人たちの住所に配送させていたという。
大学の入学手続きや所得税の申告など、あらゆるサービスがネット化された今、インターネットに接続できることは、すべての人にとって水や空気のような文明的な生活に不可欠な要素となりつつある。先日、パリに来た友人も、「ネットのつながらないホテルで困る」と愚痴をこぼしていたが、今回のニュースは、刑務所での監視のずさんさもさることながら、ネット環境に限っていえば、悲しいかな刑務所の塀の中は、下手な巷のホテルよりもレベルが上ということを証明したことになる。だが、いくら昔から気心の知れた仲とはいえ、さすがに「お前もブタ箱に入れば」などとは口が裂けてもいえなかった。 (浩)