ユゴ―の食風景 -4-

 『レ・ミゼラブル』(1862年)は、『ノートルダム・ド・パリ』(1831年) と並んで、ヴィクトル・ユゴーが残した最も有名な小説だ。子供向けのダイジェスト版、ミュージカル、テレビドラマ、映画など、何らかの形でこの作品に触れたことがある読者も多いと思う。
 主人公は、ひもじさからパンを盗んだために刑務所に送られたジャン・ヴァルジャン。不器用だが誠実なこの人物の半生を追いかけていくうちに、19世紀前半のフランスが手にとるように理解できる。
 幼い頃に両親を亡くした25歳のジャン・ヴァルジャンは、まだ幼い七人の子供の父親代わり。樹木の枝おろしや刈り入れ、農場の牛飼い小僧、工作人などをして一家の大黒柱として働き、若者らしく恋にうつつを抜かす暇もない。しかし大家族を養うのは並大抵のことではなく、家計はきびしくなるばかり。「それはしだいに貧困に包まれて衰えてゆく悲惨な一群であった。そのうちあるきびしい冬がやってきた。ジャンは仕事がなかった。一家にはパンがなかった。一片のパンもなかったのである。文字どおりに。それに七人の子供。」(豊島与志雄訳)
 ジャンが有罪判決を受けたのは1795年。パンを求めたパリ市民が革命を起こしてから6年後のことで、飢餓はまだまだ身近なものだった。出版当時、作家や批評家からは決して評判が良くなかったが、一昔前の一般庶民の人生を赤裸々に描くこの一大叙事詩は、しっかりと読者の心に届いた。出版元が経営しているセーヌ通りの書店には、朝6時から本を目当ての人々が押しかけたという。出版後直ちにポルトガル語、ギリシャ語、イタリア語に翻訳され、それぞれの国で絶賛されたという事実も、この小説の普遍的な魅力を伝えている。(さ)