プルーストの味を求めて –10

 プルーストは高級ホテルを日常的に利用するような生活をしていたが、一方では素朴な暮しに対してもある種の美しさを見いだしていたようだ。
 アラン・ド・ボトンによる名著『プルーストによる人生改善法』(畔柳和代訳)には、プルーストが若いときに書いたエッセイが紹介されている。その中に、王侯貴族の豪奢な生活に憧れている青年が出てくる。自らの慎ましい生活に不満を抱いてフラストレーションを抱えているこの青年に、プルーストはシャルダンの絵画を熱をこめて紹介する。この画家が好んで描くのは、庶民の台所にころがっているような果物や水差し、コーヒーポット、パンやナイフ、ワインなど。きらびやかな世界からはほど遠い。ところが、そういった平凡に見える情景も、「尋常でない感受性」をもった偉大な画家によって再現されると、独特の魅力を持つ新しいものとなって見るものを刺激するようになる。そんな絵を例にとりながら、将来誰もが認める大作家となるプルーストは、彼自身のアートである文字を駆使し、物の見方について読者に説こうとしていた。
 現実を違う角度からとらえることは、プルーストの得意とするところ。彼自身は子供の時から病気に苦しめられ、好きなものを思う存分食べられなかったにも関わらず、『失われた時を求めて』には食にまつわる豊かな表現にあふれている。執筆中も厳しい食事制限を強いられていたが、料理を単純に味わう快楽を超えた何かを求めてであろう、プルーストは時折レストランに足を運んだりもした。食いしん坊な読者は、そんな作家による食の描写にすっかり魅了され、その鋭い感受性のおこぼれを拾い集めるかのように、夢中でページをめくることになる。(さ)


 

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