ジョルジュ・サンドの食卓から 3

 サンドの初期の名作『モープラ』(1837年)の舞台は、18世紀のフランス革命前夜。全編を通してこの時代の思想家ルソーの哲学が流れている。サンドは、祖父母の影響もあって子供の頃からルソーの熱心な読者であり、ルソーの「精神的な娘」と言われるほどだった。
 教育からしりぞけられていたベルナールにルソーの思想を伝えるのは、愛する従妹のエドメ。彼女の朗読する声に導かれるように、ベルナールは最先端の思想を猛スピードで学んでいく。そして、ベルナールのもうひとりの教育係が、森の中や塔の下に家を建てて一風独特の生活を送っている田園の哲学者パシアンス。ヒロインのベルナールは、久々に訪れたその庭に驚かされる。「すでに立派な枝ぶりになった美しいリンゴの木が、これらの植物(筆者注:キャベツ、ニンジン、サラダ菜)の上に緑の日傘を傾けており、紡錘形と扇型に交互に刈り込まれたナシの木や、ヒマワリとアラセイトウの根元に植えられたタイムとセージを見ると、奇妙なことに、パシアンスが階級社会の思想や贅沢な習慣に立ち戻ってしまったのではないかと思われました。」(小倉和子訳)
 確かに、自然の中に教えを見いだすところのあるルソーの主張からすると、この庭には人の手が入りすぎているのかもしれない。でも、読者としては、田舎のすてきな庭の風景を想像させてくれるこんな描写は大歓迎。サンド好きなら、作家が長く暮したノアンの館の庭に思いをはせることになる。そこではグリーンピース、イチゴ、メロン、イチジク、ブドウ、パイナップルまでもが栽培され、サンド自身が庭仕事に何時間も費やすこともまれではなかった。果樹園にはモモ、ナシ、アプリコット、マルメロの実がたわわになっていたという。(さ)