「自然と共に生き、その自然に生かされている というのはどういうことなのか」
「約40年前、私たちフランスのカキ養殖業者は、カキの病気により窮地に立たされていました。それを救ってくれたのは、種ガキを送ってくれた日本の同業者なのです」とジョエルさんは涙ぐんだ。養殖業者と小売り店の仲介者として働いていた父の跡を継いで養殖業者になってから39年、そのジョエルさんも今年定年を迎える。「その当時は、日本からの種ガキをフランスに直接輸入できなかったため、一度ベルギーを経由しフランスに輸入。そして蘇生(そせい)されたのが、業界では「huître japonaise」と呼ばれ、「huître creuse」として市場で売られている真ガキです」
取材に出かけた時は、ハイシーズンに助っ人として働く従業員のヴァンサンさん、そして研修生のエリックさんと3人で大忙しだった。海水中の塩分濃度の計量から一日が始まる。雨や、河口からの水量増加により海水の塩分の濃度が低下すると、養殖田から洗浄作業所にある浄化水槽に移し、ゲランの塩を加え48時間置く。「塩分過少だと味に締まりがなくなる。満潮と干潮の間に、網に入ったカキを移動させるのです」。水産に従事する者のトレードマークである黄色い合羽を着たヴァンサンさんの、海岸際の養殖田に腰までつかりカキの網を取り出す姿が、遠くに見える。
養殖過程に必要な養殖田は3種類ある。種ガキを育てるものは常に水中で、沖に位置する。成長が進むと、海岸近くの養殖田に移す。この養殖田は干潮の際は干され、満潮の間は水を被るような所にある。そして成長過程がほぼ完了したら、満潮になっても海水を被らないようにコンクリートで囲まれた浄化水槽と呼ばれる田へ移す。作業場近くにも、水揚げ間近にカキをつけておく浄化水槽がある。「2ミリ以下のサイズのカキの赤ちゃん(種ガキ)約10万個を、目の細かいプラスチック製の網に入れ、海で養殖します。そして3年かけてようやく立派なカキとなるのです。この時点で網の目は約14ミリで、その網の中には200個のカキが入っています」
出荷直前に水揚げされたカキは、海水に圧力をかけて洗浄する機械で何度も洗う。洗浄したカキを一箱25kgのケースに入れ、重量を計ったりする作業場へ。サイズ分別をし、専用の木箱に海藻と一緒に一つずつ手で詰め、ふたをテープで閉めれば完成。これらは地元の魚屋やマルシェで売られる。また作業場のすぐ横にある直売店でも販売。ピークでは1日800kgを出荷するという。シーズンオフは主に養殖田の手入れ、成長過程にあるカキの世話。船の手入れや、8千枚ある網の掃除など限りなく仕事が続く。
養殖田の栄養素は近くにある河から流れ入
る。もちろん海自体の状態も、安全でおいしいカキに育てるのに大切な要素だ。「近年海洋汚染の問題が浮上し、そして決して遠くない位置に原子力発電所もあります。これらの現状は、私たち人類が選んだ結果でありますが、我々は改めて、自然と共に生き、自然に生かされていることがどういうことなのか、問い直す必要があるのではないでしょうか」
カキ養殖業者として、種ガキを育成したり、沖へ出たりなど、たえまなく働くその姿を、一年を通して取材してみたくなった。(麻)
Huîtres de Pénerf Joël Denis:Port de Pénerf
56750 Damgan 02.9741.1163