ヒッチコックが1935年に監督した映画作品『39階段』の舞台化を数年前に観た時に、一つの完成された作品が前例としてある場合、それを再度掘り出して独自の作品とする新しい作家たちの苦労は相当なものだと実感した。
その『39階段』を笑いと共に風通しをよくしつつ舞台化したエリック・メテイエが、新戯曲『おばけ列車』を演出するという。最初から最後までおなかの皮がよじれるほど笑った、『39階段』の思い出が頭をよぎる。
『39階段』に比べ、『おばけ列車』はゆるりと発車しはじめる。吸血鬼ドラキュラの故郷、トランシルバニアの荒涼とした土地を列車が走っていく。その間に様々な「おばけ」たちが登場する、というたわいないストーリー。「おばけ」と名付けられているからには、必ず「キャー!」という一瞬が訪れるに違いない、と期待するのが観客の心理。ただ期待しながら観ていてもなかなかその興奮の時が訪れない。しかし舞台の中盤から、観客席から少しずつ笑い声が起こり、そしてその笑い声がいつしか悲鳴や歓声へと変わっていく。
列車だから、発車あり、加速あり、そして猛スピードで進む時があり、最後の終着駅がある、と気づいたのは、観劇後のことだった。 最初から盛り上げると、息切れがする。でもこうして少しずつ盛り上げていけば、クライマックスを迎えることができる。これも一種、作家と演出側の作戦で、その作戦に私はまんまとのせられてしまった。脚本はメテイエとジェラルド・シブレラ、メテイエの演出は相変わらず緩急の操作がうまく、5人しかいない役者たちも見事な連携プレイで、私たちの注意を引き付けてやまない。(海)
Théâtre de la Gaîté Montparnasse :
26 rue de la Gaîté 14e 01.4320.6056
M° Gaîté 火-土21h、土マチネ16h30、
日15h。16€-38€。 www.gaite.fr