5時から7時までのクレオ /飛行士の妻
Cléo de 5 à 7
5時から7時までのクレオ 1962
冒頭に出てくるタロット占いのシーンが撮影されたのは、リヴォリ通り58番地のアパルトマン。ここで死神のカードを引いてしまった主人公のクレオは、思わず涙を流す。その日、ガン検査の結果を待っている彼女は、それでも何とか気を取り直し、夕方のパリの街を行き来する。アニエス・ヴァルダ監督の2本目の長編だ。
モノクロで映し出されるポン・ヌフ、ボ・ザール、ラスパイユ通り、カフェ兼レストランのラ・ドーム。6月のパリの夕暮れの中、水玉模様や黒のワンピースでパリをさまよう見目うるわしいクレオの姿は、道行く人の視線をひきつける。
運命の出会いは14区のモンスリ公園の滝(写真)の前。「水の音はお好きですか?」と言って、クレオに話しかけたのは、休暇中の兵士アントワーヌだった。どこかメランコリックで詩的な彼の言葉に、クレオは思わず聞き入る。「病院に一緒に結果を聞きにいこう」という彼。「タクシーで?」というクレオに、彼は答える。「いいや、バスで行きましょう、その方が愉快ですから」
ちょうどやってきたバスは、13区のランジス通り、ボビヨ通りを経てイタリー広場へ。オピタル大通りから、ピティエ・サルペトリエール病院へ。バスの高さから見るパリは、タクシーからの目線とはまた違う魅力にあふれている。道々、街路樹などについてさりげなく語るアントワーヌがなんとも素敵で、クレオじゃなくても思わず恋に落ちてしまいそう。(さ)
La Femme de l’aviateur
飛行士の妻 1980
エリック・ロメールはパリ愛あふれる映画を何本も撮っている。『飛行士の妻』もそうだ。東駅の郵便局でバイトする大学生フランソワは、夜勤明けのパリの街を、年上のガールフレンド、アンヌに置き手紙をしに行き、彼女が、別れたはずの元彼、飛行士のクリスチャンと家を出てくるのを目撃してしまう。心穏やかならぬフランソワは、アンヌの勤務先まで出向いて話そうとするが足蹴にされる。午後、フランソワは友だちとの約束で戻った東駅で、なんとクリスチャンが女性と待ち合わせているのを見かけ、好奇心にかられ思わず尾行、彼らが乗ったバスに飛び乗る。向かい席に座っていた女子高校生リュシーとクリスチャンたちが降りたバス停で、フランソワも飛び降りると、自分をつけてきたとリュシーに誤解される。降りた所はビュット・ショーモン公園(写真)。事情を知ったリュシーは面白がってフランソワをけしかけ二人の探偵ごっこはエスカレート、果たしてクリスチャンと連れの女性の関係は解明するのか? 夜のとばりが降りるまで物語はパリの街を舞台に展開する。終盤に出てくる、アンヌが住む屋根裏部屋もとってもパリ的だ。
さて、映画の本当の主人公はアンヌの女心である。その真意(そんなものは秋の空と同じで多分ない)を知りたいフランソワの男心が物語を牽引(けんいん)、そしてタイミングの妙で生まれるプチ・サスペンス、これこそがロメール映画の悦楽。携帯電話出現以前はパリをこんな風に謳歌できたのかとも…。(吉)
La Femme de l’aviateur