米アカデミー賞で長編ドキュメンタリー部門にノミネート(授賞式は3/2)された映画『Black Box Diaries』が、いよいよフランスで劇場公開に。フランスではナント三大陸映画祭で開幕上映された後、カルカッソンヌ政治映画祭で観客賞、ビアリッツ国際ドキュメンタリー映画祭で最優秀賞と受賞ラッシュが続く。
伊藤詩織監督は元TV局記者から受けた性暴力を、顔出しの記者会見で告発。日本の#MeToo運動の先駆け的存在となった。だが、権力者と懇意の加害者は容疑を認めないばかりか、名誉毀損で逆に訴えてくるという悪夢を経験する。映画はその不条理に立ち向かう日々の記録だ。記者会見、家族や支援者との交流、本の出版、警察や弁護士、証言者とのやりとりなどを写す。映像や音声記録の数々は、司法やマスコミが機能不全にある中の自衛手段でもあったろう。とはいえ最も印象的なのは、ひとりスマホに向かい、思いを吐露する姿。表舞台で見せてきたしっかり者の表情と異なり、時に弱さや脆さも滲(にじ)むのだ。
去る2月3日、パリ14区の映画館で伊藤監督が登壇の先行上映会が開催。満員の客席からは連帯の言葉を送る女性団体のメンバーや、家族が日本で行方不明となり途方に暮れる若者など、彼女に何かを伝えたい人々が駆けつけた。現在、映画は世界58ヵ国で配給が決まっているが、日本公開の予定がない。背景には映像使用承諾の問題があるようだ。事件があったホテルは防犯カメラの映像使用を許可していない(しかし、なぜそんなに頑なに拒むのか?)。なんとか落とし所を見つけ、公開に漕ぎ着けてほしい。「私はオスカーのために作ってない。日本で見てもらうために作った」と壇上で語った伊藤の言葉を思い出す。フランスでは日本公開に向け署名活動が始まった。3/12日公開。(瑞)

