恋にこと欠くことはなかった。
機知に富み、陽気で気前のよいデュマは、生涯を通して多くの女性をひきつけ、女優や歌手など、優に30人の愛人を持ったといわれている。「私が複数の愛人を持つのは、ヒューマニティのため。もし一人しかいないとしたら、その女性は8日と持たないだろう」と、公然とのたまわったデュマ。同年代の他の作家たちが持ったような罪悪感とは一切無縁で、次から次へと女性を追いかけた。作家としては勢いの衰えた晩年まで、恋にこと欠くことはなかった。
ただし、結婚したのは一度きり。お相手の若き女優のイダ・フェリエには、結婚直後に堂々と浮気をされたり、離婚の際にもさんざんな目にあわされたために、その後再婚することはなかった。
ちなみに、デュマ=フィスとして知られる『椿姫』の著者は、デュマがパリに上京したての時に出会った8歳年上のマリ-=カトリーヌ・ラベーとの間の子供。デュマ=フィスは、父の本妻イダ・フェリエには強く反発したけれど、父の友人、ジョルジュ・サンドにはよくなついて、「ママン」と呼びかけることもあったほど。そんなこともあり、デュマとサンドの間には、どこか家族のような深い友愛が生まれた。デュマがサンドに宛てた手紙をみていくと、初期にはよそよそしく「マダム」だった冒頭の呼びかけが、 次第に「親愛なる、すばらしい友へ」、「私の親愛なる妹へ」、「親愛なるジョルジュ、ノアンのノートルダムへ」と変化していく。手紙の端々からは、2歳年下の友人であり、同業者でもあるサンドへの細やかな心遣いや愛情、尊敬の念が感じられる。
68歳で亡くなったとき、誰よりもデュマを献身的に看病したのは、娘のマリー=アレクサンドリーヌだったという。自分の子供を認知しなかったり、浮気を繰り返したり、まったくモラルのない困った面もあったけれど、最後まで女性たちに見放されることはなかった。これも、その卓越した 「ヒューマニティ」のおかげ?
画像:collection de la Société des Amis d’Alexandre Dumas. © Gilles Mermet / AKG Paris
アメリカの女優 アダ・メンケンも 恋人の一人。
アレクサンドル・デュマ年譜
1802年7月24日 ヴィレール・コトレで誕生。
1819年(17歳)『ハムレット』に感動。演劇を志す。
1823年4月(21歳)パリに上京。
1824年7月(22歳)息子(デュマ・フィス)誕生。
1829年2月(27歳)『アンリ三世とその宮廷』が成功を収め、劇作家としての名声を得る。
1840年2月(38歳)女優イダ・フェリエと結婚。
1844年3月(42歳)『三銃士』連載スタート。
1844年8月(42歳)『モンテ・クリスト伯』連載スタート。空前の人気を博す。
1851年12月(49歳)破産宣告と身柄拘束を避けるためベルギーへ亡命。
1854年1月(52歳)パリに帰還。
1869年7月(67歳)『料理大事典』執筆のため、ブルターニュの漁村に滞在。
1870年12月5日(68歳)永眠。
1872年4月 遺体がヴィレール・コトレの墓地に移される。
2002年11月30月 遺灰がパリ・パンテオンに移される。
*辻昶・稲垣直樹著『アレクサンドル=デュマ』(清水書院)参照
〈デュマ巡礼〉インフォメーション
●Le Château de Monte-Cristo モンテ・クリスト城
RER A線Saint-Germain-en-Laye駅下車。バス10番線Marly le Roi行きで10分のLes Lampesで下車、徒歩5分くらい。
11月2日~3月31日:日曜のみ14h-17h。4月1日~11月1日:火~金10h- 12h30/14h-18h、土日祝10h-18h。
Château de Monte-Cristo, 78560 Le Port-Marly
01.3916.4949 www.chateau-monte-cristo.com
●Pavillon Henri IV
1844年春、デュマは騒がしいパリを離れて、サンジェルマン・アン・レイの〈パヴィヨン・アンリ4世〉で代表作の『三銃士』を書いた。現在も豪華なホテル・レストラン。
www.pavillon-henri-4.com/fr/index.php
●Panthéon
パリ5区、フランスを代表する偉人たちが眠るパンテオンに、デュマが殿堂入りしたのは生誕200周年にあたる2002年だった。
●デュマ像
パリ17区、地下鉄Malesherbes駅をあがったところに、ペンと本を手にしたデュマ像がある。デュマの足元に見えているのは、本に夢中の読者像。裏側には、『三銃士』のヒーローであるダルタニャンの彫刻も。
●Musée Alexandre Dumas
デュマ生誕の地Villers-Cotterêtsにある美術館
14h-17h/日14h-18h。火曜と毎月最終日曜および祝日休。行き方はtourisme.cc-villers-cotterets.fr
パリ17区、地下鉄Malesherbes駅から上ると デュマ像がある。