今回はたまに日本の本です。表紙のイラスト(荒井良二です!)が『星の王子さま』のパロディなんだから、許してもらいたい。著者、椎根和は、2010年12月に男の子を産んだという想定の母親に成りかわり、彼女の、少しずつ可愛く育っていく王子さまを見つめる視線と、フクシマ原発事故の何も知らされていないことから感じる不安を、ある時はパラレルに、ある時は交差させながら語っていく。
原発関係本にありがちな堅苦しさはなく、庶民たちの切実な心が自然に浮かび上がってくる。著者の豊富な知識というか、いい意味での雑学が入り込んできて、ちょっと焦点がずれたりもするが、その分どんどん読めてしまう。東電や政府の、ずさんな安全対策や数々の事故をうそでごまかす態度に対する著者の怒りが、「王子さまの母」という殻を突き破って随所で表出。そしてどうにもならない不安。「時には、王子さまとふたりきりでいると、突然、なぜだなぜだと狂暴な気持ちになりました。しかしすぐに、モヤモヤした目にみえない塵が、室内にも、ガラスのむこうにぼんやりみえる桃の木にも、わたしの体の中にも入ってくるような気がするのです。(…)このモヤモヤが問題です。わたしの元気を吸いとってしまうのです。元気がなくなると宙ぶらりんの気持ちになります」
この本を読んだら、次は広瀬隆著の『東京に原発を!』。たしか岩波新書から出版されたものだが集英社文庫の一冊として復刊されている。資料を駆使し原発のコワサをまざまざとわからせてくれる。ボクは1990年頃にこの本を読んで反原発になった。原発がそんなに安全なら、その電力のほとんどを消費している東京に原発を建設すればいい、というのはあまりにも正論だ。(真)