日本では今もいじめ問題が解決されていないよう。90年代には、いじめによる自殺件数が小中高合わせ190件余に達したという。最近フランスでも公開された直木賞作家・森絵都原作のアニメ映画『カラフル』を観たフランス人は「日本の静かな家庭でも、少年の悩みは分らないのか…」と日本社会だけの問題ではないととらえたのでは。
今年1月5日、パ・ド・カレ県ランス市の中1女子生徒(12歳)が、家族に置き手紙を残し父親の猟銃で自殺した。内気ながらスニーカーにジョギングスタイルを好むおてんば娘風だったという。一部の生徒のいやがらせの標的になっていたが親にも教師にも話さなかった。母親は監督不十分として校長を相手取って告訴した。
フランスでも最近いじめが問題視されるようになり、昨年5月に全国会議が開かれ、シャテル教育相を始め教育・心理学者らが重要課題として取り上げた。2010年の統計では、小学生の11〜12%(心理的いじめ14%、暴力10%、両方11.7%)がいじめられた経験があり、3400人の中学生を対象とした調査では、8.4%はいじめられたことがあり、6.1%はいじめの首謀者を演じたという。
クラスには常にナルシスト的お山の大将(家庭問題からくる自己防御心理の裏返しともみられる)がいて、転校生や肉体的・外見的相違のあるクラスメートを休み時間や通学途上で嘲笑してはやり玉に上げ、暴力を振るったり持ち物などを破損させたりして、周りの生徒を観衆として巻き込む。いじめには黙視する集団が必要だ。友人たちはいじめの対象でないことへの安堵感と、教師に告げ口などしたらグループの除け者にされるという不安から沈黙の壁が厚くなり、集団といじめ役との共犯関係が形成されていく。
小学生のいじめは暴力が多いが、中学からは言葉による暴力が顕著になり、最近はフェイスブックやツイッターによる侮辱的内容のメールや、特に女子生徒は醜悪なうわさを流しては対象者を孤立させていく。このようなバーチャルのいじめに対し教師や保護者の手におえない状況に。
いじめられる生徒は羞恥心と自信喪失で不登校やひきこもり、腹痛、学力低下、拒食症、自殺…へと至る場合が多い。親は思春期のせいにしたり、カウンセラーに診てもらったり、または転校させたりする。しかし、こうした問題からの回避は、逆に被害者に、保護者にも見捨てられたような孤立感を強めかねない。
心理学者によれば、小中高時代に生まれるべきアイデンティティの芽がいじめによってつぶされることもあるという。いじめはトラウマとなり大人になってからも残る精神的外傷となりうるのだ。そしていじめの体験は学校時代の一時期のものであっても、その心理的弊害はドメスティック・ヴァイオレンスと同様に、本人の子供にも引き継がれる可能性があるという、背筋が寒くなるような分析結果を発表している。
いじめの問題は親子だけでは解決できない。子供の様子に何らかの変化が見られた時は親が早急に主任教師や校長に知らせるべきと教育省は奨励する。そして教室では該当者の名前を伏せて説明し、全員の問題として話し合う機会をもつべきだと教育関係者の注意をうながしている。(君)