セギュール夫人って知ってる?
8歳の自分の娘に「好きな作家は?」と聞いたら最初に返ってきた答えが「Comtesse de Ségur(セギュール夫人)」。「誰それ」と言うと呆れられたので、調べてみるとたしかに有名な児童書作家だった。
ロシア生まれのソフィー・ロストプーチン、またの名をセギュール夫人。1799年生まれはバルザックと同じ。モスクワに火をつけたかどで亡命を余儀なくされたロシアの元外務大臣の父フョードル・ロストプーチンに伴い、18歳で渡仏、20歳で結婚。夫の祖父にあたるセギュール元師の名は、今もパリの地下鉄10番線「Ségur」の駅名に残る。忙しい浮気夫に放っておかれながらも、夫人は故郷のロシアを思わす風光明媚なノルマンディーのオルヌ県に居を構え、子育てを楽しんだ。58歳の時に子や孫たちに語って聞かせた物語を本にまとめると、作品は評判を呼び、たちまち有名作家の仲間入り。遅咲きの才人である。
代表作は『Les Malheurs de Sophie』、『Les Petites filles modèles』、『Les Vacances』の三部作など。本に登場するソフィーは、トラブルメーカーだった子供時代の夫人本人がモデル。言い訳ばかりでちっとも可愛くない金持ちのワガママ娘だ。嘘はすぐにばれ愚行は裁かれるの繰り返しが、なぜかけっこう面白い。災難を被るいとこのポール少年や動物たちはお気の毒さま。夫人は道徳教育の意味を込めて孫たちに物語を捧げたというが、過去にパワー溢れる迷惑娘だったからこそ、後年エネルギーが別の形で開花し、作家として大成したのでは? 現在日本ではセギュール夫人本は絶版ばかり。だからフランス語をかじっている人は是非とも原語で挑戦を。いろんな出版社から出ているが、やはりノスタルジックな趣きのある本家アシェット社刊の〈Bibliothèque rose〉シリーズを古本屋で見つけてほしい。