シラク前大統領(78)がパリ市長だった1995年までの時期に、市の職員ではないコレーズ県人や知人に、彼が党首だった旧共和国連合党RERや選挙運動の手伝いをさせ、その報酬をパリ市歳費で支給した21人の架空雇用疑惑がついに法廷に。1995年から2007年までの大統領任期中、大統領免責特権により原告Anticor市民団体による告訴も却下されてきたが、大統領退任後シラク氏は一市民として、元市長官房長2人を含む容疑者9人とともに、9月5日パリ軽罪裁判の被告に。
パリ市がシラク元市長を「公金横領・背信容疑」で提訴した民事訴訟はドラノエ現市長が取り下げ、2010年秋に損害賠償金220万ユーロの75%、165万ユーロを現与党UMPが、残りの50万ユーロをシラク被告が返済することに合意し和解が成立。その他、パリ地域の低家賃住宅HLMや高校校舎建設疑惑など数件が免訴か時効になっている。当時パリ市財政助役として架空雇用疑惑の片棒を担いだジュペ現外相は、2004年ヴェルサイユ軽罪裁で執行猶予付懲役14カ月と1年の被選挙権剥奪刑を受け、同疑惑の贖罪(しょくざい)役を務めている。
フランス共和国史上初めて、かつての大統領が被告席に! ? と国民がかたずをのんでいたところ、シラク夫人と娘クロードさんが7月にシラク被告の診断をリオン=カーン精神科医に依頼し、「被告は病態失認状態にあり記憶喪失障害により法廷での返答は困難」という診断書が公判初日に読まれシラク被告は出廷を免れ、弁護士が被告代理を務めることに。弁護士はフランス有数のキエジマン弁護士とヴェイユ弁護士。
シラク氏は2005年大統領在任中に脳卒中で倒れ、後遺症アルツハイマーの初期症状をみせている。自分では病状を認知せず、6月12日、地元コレーズ県サラン市ではオランド県会議長・社会党候補の肩を叩きながら「次期大統領選はオランドに投票する」と2回もくり返し、サルコジ大統領の激怒をかう。シラク夫人と娘クロードさんはエリゼ宮に馳せ参じ大統領の怒りをなだめる。目をはなすとシラク氏の口から何が飛び出すかわからず家族はヒヤヒヤ。この夏サントロペでのふらふら歩きのシラク氏の姿や、カフェテラスで仲のいい億万長者フランソワ・ピノー氏と目もうつろにピナコラーダに舌鼓を打つ姿をメディアが報道。
シラク被告は「万人平等の民主主義のためにもこの裁判に応じる決意がある」と表明していたが、家族と弁護側は3月にも裁判法を操りながら公判を延期させてきた。家族は是が非でも前大統領が被告席に立つのを阻むことと、法廷でシラク被告が何を言い出すかわからない危惧から、医師の診断書により出廷を免れさせることができたが病態失認症患者として社会から葬ることに。シラク氏は6月に憲法評議会の任務からも解かれている。
9月20日、2人の検事長は「シラク被告が架空雇用に通じていたという証拠はない」「違法の雇用システムは存在しなかった」とし完全無罪を要求。23日、弁護側は被告が大統領としてなした偉業を力説し、たかが雇用問題で大統領を裁くことは元首の権威ととも国家を卑下することになると、無罪を要求。判決は12月15日に。だが上記のパリ市との和解による損害賠償金支払いはどうなるのか …という疑問が残る。(君)