今回訪れたのはポルト・ド・ヴァンヴとポルト・ド・ヴェルサイユの中間辺り。ルフェーヴル大通りにはすっかり定着した新トラムT3が行き交う。大通りの北側はのんびりと落ち着いたアパルトマンが並ぶ住宅地、南側には年間を通して沢山の展示会が行われる会場や、気のきいた掘り出し物が多いことで知られるヴァンヴの蚤の市があり、パリ中、フランス中、ヨーロッパ中の人たちが入れ代わり立ち代わりやってくる。
エリーさんはここに住んで20年。特に選んでやってきた地ではなく、家族の紹介で偶然にアパルトマンを見つけたそうだ。エリーさんは詩人である。他には肩書きを持っていない。21世紀のパリでこんな人に巡り会えるとは思ってもいなかった。生まれはパリ8区オスマン通り、30歳までそこで暮らし後にモンマルトルに十数年、そして現在の15区のアパルトマンに至る。貴族とブルジョアの名門出で、家族のルーツであるノルマンディ地方ルーアン市には発明家である曾祖父の名がついた通りが存在し、近郊には先祖代々の大きなお城があるそうだ。真剣に詩を書き始めたのは10歳のころ。フランス語においては常に学校で一番の成績で、あらゆる賞を取得した神童だったとのこと。幼少期から青年期にかけては、実業家の父親が多くの芸術家や文化人をオスマン通りの家に招いてパーティ三昧、さながら『サロン』のようだったという当時が、現在のエリーさんに大きな影響を与えていることは間違いなしだ。機知に富むエスプリ、流行には関係なくスカーフやマフラーをシックに着こなすダンディさを自然に備えている。
毎日の執筆活動の殆どは自宅だそうだが、エリーさんは午後半ばになると近所のカフェに向かう。行き交う人にインスピレーションを得てデッサンやクロッキーをしていると、夕方にかけて顔馴染みたちがカフェに集まってくるのを観察する。変わらないようで少しずつ変わっていく街を見つめる証人であるかのように。(久)
Elie DELAMARE-DEBOUTEVILLE著の一部 『短い時間を前にして』、 『地球に取り残された神の為の詩』
壁に貼られた詩、自画像、ブルトンの写真…
Parc Georges Brassens
Parc Georges Brassens
ブリジット・バルドーをイメージしたというデッサン(!)