一見、定年退職した平凡なカップルにみえるが、その裏には劇的な運命が隠されていた。35年前、パリ郊外クルブヴォワ市のタバコ屋で働いていたドロレスさ
んが一目ぼれしたのはフィリップさん。ハーレーダビッドソンに乗ってくる常連客だった。「2時に仕事が終わるから、迎えに来てくれない?」。当時、彼女は
2児を抱えたシングルマザー。1976年の元日、彼を自宅に招いて以来、離れたことがない。
「4歳から20歳まで修道院で育った私が、はじめて
つかんだ幸せよ」とドロレスさん。彼女の父はフランコ独裁政権下、死刑判決を受け、フランスに亡命したアナーキスト。7人の子供は幼いころ、バラバラに修
道院に送りこまれ、週末の面会はなかった。一方、母子家庭に育ったフィリップさんは、ドイツ人の父が、家族を捨てたと聞かされていたが…。
ドロ
レスさんは修道院を出た後、20歳で結婚。2人の子供に恵まれたが、夫の家庭内暴力で、子供を連れて家を飛びだす。その後、運命の磁石で引かれあうように
して出会った。「結婚は論外、自分の子供はいらない」主義のフィリップさんだが、彼女の子供は実の子のように可愛がった。ともに夜から明け方までの仕事。
彼は印刷所の植字工、彼女はランジス中央市場・魚売り場のレジ係として、貧しいながらも慎ましく暮らしてきた。18歳だった息子をバイク事故で失くした時
も、あらゆる苦悩を分かち合った。
9年前のある日、一本の電話が入る。フィリップさんの父親についてのドキュメンタリーが、ドイツのTV局で放
送されたという知らせだ。父は戦後、国外逃亡したナチスの幹部を探すCIAのスパイだったと判明。5回重婚を繰り返し、15人の子供を残し、3回宗教を変
え、現在ベネズエラのカラカスにあるユダヤ人墓地に眠っているという。「天地がひっくり返るくらい驚いたよ。これまで僕が名乗ってきたワーグナーという名
字も、偽名だと分かったんだから!」。56歳で早期退職。父の伝記を読みたい一心で、ドイツ語を学びはじめた。一方、ドロレスさんは「家族を知らずに育っ
たけれど、2年前、娘に子供が生まれてから、専属の子守りになっちゃったの」と照れくさそうに微笑む。洋裁や家のリフォームはお手のもの。退職後、それぞ
れ夢中になれる「何か」を見つけた。(咲)
これから相手に期待したいことは?
「存在してくれるだけでいい」(フ)
「一生、付き添って欲しい。私を捨てたら殺すわよ!」(ド)
前回のバカンスは?
「昨年の夏、ブルゴーニュ地方の友人宅へ孫を連れて行ったの。毎日、ゆっくり散歩したわ」(ド)
夢のバカンスは?
「半年ごとに国を変える長旅。ドイツやロシアに行きたい」(フ)
「長旅は賛成よ。でも北欧が私の好みなの」 (ド)
最近、二人で行ったイベントは?
「先月、国際農業見本市へ。馬や牛や羊や豚をみて、孫娘は大はしゃぎだったよ」(フ)
カップルとしての満足度を5つ星でいうと?
★★★★「パーフェクトはあり得ないよ」(フ)
★★★★「パーフェクトじゃないのはいいこと。これからも進歩できるからね」(ド)