「年末はアイスバーンに気をつけて」と書いたばかりだったが、実際にアイスバーンのトラブルに立ち会ってしまった。親日家のダニエル夫人とオペラ鑑賞に出
掛けた帰りのこと。雪は降っていないが突き刺すような寒さの中、マダムの運転でパリ外れのアパートの近くまで来ると、道はアイスバーンになっていた。でも
マダムのプジョーは夏タイヤのまま。
「道路が凍っているようだけど、もう少しスピードを落とした方がいいんじゃない?」。「私はフランス人
よ!
フランスで生まれ育って40年も運転しているの。こんなの慣れたもの」と、鼻で笑い飛ばすマダムの言葉とは裏腹に、私たちを乗せた車は細い交差点で滑り出
し、鉄のポールに正面から「ゴツン」。「あらら、滑ちゃったわ」とつぶやいたマダムは、そのまま運転を続ける。「車を下りて傷を確認した方がいいんじゃな
い?」と言うと、「あの位の衝撃じゃ、ちょっと車にかすり傷ができたくらいのはず。問題ないわ!」。「でももう自宅も近いんだし、少し速度を落とした方が
よいのでは?」という私のアドバイスに対しては、「私の運転を信用して。私はゆっくり走っているの。安心して」。心臓が飛び出しそうなほどドキドキ状態の
私を乗せたプジョーは、ようやくアパートに到着。ところが今度は駐車場入り口で曲がり切れず、縁石に車が「ガツン」と衝突したが、マダムは一向に動ぜず、
そのまま駐車場に車を入れた。
「結構衝撃あったから、車が壊れたかもしれないね」。「まあ仕方ないわ。滑っちゃったんだから」とマダムは何事も
なかったかのように立ち去ろうとするので、「傷を確認しなくてよいの?」と聞くと「もう遅いし寒いし、明日でも問題ないでしょう。急いで見たからって傷は
直らないわ」。何という肝っ玉!
翌日「ホイールが曲がったから、さっき冬タイヤを注文したのよ。購入するよいきっかけとなったわ」と電話があった。(和)