南仏の高級アパート前に駐車された車。
パーティで出会うことが多く、すっかり顔なじみの女医のナデージュさんが、愛車を買い替えたという。富裕層に属する彼女だから、身分相応のすごい高級車を選んだのでは? という考えが一瞬頭をよぎったが・・・。
「新しい愛車はアルファロメオよ。ちっちゃくて小回りが利いて縦列駐車もしやすいし、ハンドルを切るとキビキビ曲がっていく。通勤が何倍も楽しくなったわ。ギアの入りも最高に気持ちいいの」
日本ではちょっと高めのアルファロメオも、フランスでは手が届かないレベルではない。ブローニュの森の近くにある彼女の大きなアパルトマンや、南フランスにある大きな別荘にも行ったことのある私は拍子抜けしてしまったが、次の瞬間、なるほどこれがフランス流だと感心してしまった。
日本では、富裕層、つまり会社経営者やドクターなどは高級車を所有しているのが普通で、高級住宅地にはそれに見合う高級外車がガレージに収められている。ところがフランスの場合は家は豪華な構えでも、車は一般的な大衆車だったり(よく見ると特別な限定モデルだったりすることもあるが)、30年間も乗っているという今にも壊れそうなオンボロ車だったりするのだ。交通事情や歴史的背景(以前、馬力数値の高さに従って課税されていた)といった違いがあるから一概に比較はできないが、前回紹介したパトリックさんのように、徹底的に時間をかけ妥協しない車選びの結果、財力に関係なく大衆車を購入するという感覚は、「お金があるんだから高級車を買う」のが当たり前の国から来た者から見ると、フランスは、やはり自動車文化の先輩国なのだと感じざるを得ない。
「日本人女性は一体どんな車に乗っているの? 日本には世界に冠たる自動車メーカーがいくつもあるんだから、車選びも大変でしょうね」。返事に窮した。(和)