「エリゼ宮(大統領官邸)に嵐」という見出しの7月7日付パリジャン紙。
世界最大の化粧品会社、ロレアル社相続人リリアーヌ・ベタンクール夫人(87)は仏3位の億万長者。彼女と亡夫との40年来の友人写真家フランソワ=マリー・バニエ氏(63)が、夫人の老弱化につけ込み計10億ユーロをだまし取ったとして、一人娘のフランソワーズさんがバニエ氏を相手取った民事裁判が7月1日に開廷。07年12月、09年1月とコロワ・ナンテール検事長(サルコジ大統領とは旧知の間柄)が提訴を不起訴処分にしているだけに同裁判の表と裏が見えてきそうだ。
ところがベタンクール邸宅の書斎に前執事が録音器を設置し08年5月~09年4月、夫人と財産管理人ドメストル氏の会話を盗聴録音した28枚のCD-ROMをフランソワーズさんが司法警察に提出(夫人とバニエ氏、ドメストル氏は私生活侵害で提訴)。6月16日付Mediapart サイトとルポワン誌が一部を公表。ドメストル氏が経営する夫人の財産管理会社クリメーヌが07年当時のヴルト予算相ロランス夫人を「同相に頼まれたので雇った」とか、スイスにあるベ夫人の未申告の2口座や、97年ベ夫妻がイラン王室から買ったセイシェル諸島アロス島はベタンクール財団ごとバニエ氏に贈与(未申告)したとか、今年3月地方選挙時にペクレス研究担当相に7500ユーロあげたとか、政財界疑惑が浮上。「誠実な男」でとおっているヴルト現労働相夫妻も巻き込まれ(発覚後ヴ夫人はクリメーヌ社辞職)、ロワイヤル前大統領社会党候補の言う「サルコジ腐敗政権」暴露に発展。裁判長は盗聴内容の補充調査が必要とし、裁判初日に裁判の延期を表明。コロワ検事長がそれに対し上告し、司法官同士が牽制し合う。
現在定年制改革を進めているヴルト労働相だが、競馬場のあるシャンティイ市長としてハイソサエティ名士網を掌握。07年に与党UMPの財務部長となり、同時にサルコジ内閣の予算相に就任。同相は与党UMP後援会〈プルミエ・サークル〉を設立。支援者は合法的に党に7500ユーロ(政治家個人には4600ユーロ)まで献金でき、同会員は3カ月毎にサルコジ大統領のレセプションに出席できる。ベタンクール夫人はUMPやヴルト氏後援会にも献金していたよう。
07年~08年、ヴルト前予算相による国外流出金引き戻しキャンペーンの対象者3千人の中にバニエ氏もいたが、ベ夫人は含まれていない。Mediapartとルモンド紙によれば、08年度高所得税率の引き下げ(65%→50%)で国はベ夫人に3千万ユーロを返済。同年1月23日、同相はドメストル氏にレジオンドヌールを授与、その1週間後、同夫人宅に招待されている。ここまでメディアに暴かれてはヴルト現労働相の言「ベタンクール夫人の財産については知らされてなかった」はあまりにも白々しい。本人が「辞任」などしたら疑いを認めることになると、サルコジ大統領は「誠実な男」ヴルト労働相がメディアにさらし者にされようが彼を守りつづける。(つづく)(君)