フランスの小学生の頭の中はポエムでいっぱいだ。フランス語の授業枠内で詩の暗唱が組み込まれているからだ。ミラもリクエストをすれば誇らしげに詩を暗唱してくれる。きっとフランスの子供の鼻は「ポエム・スイッチ」で、プチッと押せば詩が口から流れ出る仕掛けになっているのだ、そんな妄想によく私はとらわれる。
さてCE1(小2)のミラの場合、たいてい毎月一編の詩が課題で割り当てられる。詩は3~4パート位に分けられ授業内で少しずつ教わる。そして暗唱の宿題も出され、月末までに詩を全部覚えるよう指導される。きっと暗唱はリズムとイメージの力で言葉を身体的に身につける良い学習法なのだろう。課題に選ばれるのはプレヴェール、ユゴーといった定番作家から、フランソワ・コッペ、モーリス・カレムといった日本では知られていないが国内で有名な詩人のものなど様々。ラ・フォンテーヌの寓話詩『アリとキリギリス』を丸々暗唱なんていうのもあった。17世紀の古い表現もそのまま暗唱させるが、たいていの子は難なく覚えてしまうらしい。
先日のこと。セーヌ川沿いを散歩していたら、ふいに隣にいたミラの口から「セーヌはのんびりと流れゆき、ノートルダムは嫉妬する…」なんて文句がついて出てきた。そんな詩の一片を耳にした途端、私にとって見慣れたはずのパリの風景が急に輝いて見えたのだった。(瑞)