●Une (micro) histoire économique du monde, dansée
「世界経済の歴史と我々の日常との関係とは?」。演出家パスカル・ランベールの創作の発端は、この疑問にある。ロンドンに開いたコーヒーショップで「保険」という概念を生み出したロイドが生まれたこと、贈り物にお返しをすることで経済が成り立つ原始社会の贈与の慣行を世に知らしめた文化人類学者マルセル・モース、『富国論』のアダム・スミス、『資本論』のマルクス、執筆活動を労働とみなし「生産」に興味を示した詩人ステファン・マラルメ…
経済に詳しい哲学者エリック・メシューランが経済史を解説し、4人の女優によってそれにまつわるエピソードが演じられ、傍らでは劇場のワークショップに参加する素人役者30名が起床から就寝までの日常動作をマイムで繰り返したり、エピソードのエキストラとして参加したりする。それぞれの場面に地元音楽院のコーラスグループがアカペラで歌う音楽が付き添っていく。美術装飾を一切省いた大きな空間の中でうごめく人間と、言葉にならないハミングのような歌声は、そこで演じられ語られる経済とまったく別の世界を形成するようでいて、でも不思議にマッチしているようにも感じられる。
メシューランの解説はこう終わる。「先がよめない不安の中で生きるよりは次に来る(経済の)イベントを楽しもう」。そう、世界経済がどう動いたって、私たちの日常は変わらずに流れていくのだ。不景気だの危機だのと心配するのは無用、と、このちょっと楽天的な結末に私も思わずうなずく。(海)
2月9-20日。火木19h30、水金土20h30、日マチネ15h。 9€-22€。
Théâtre de Gennevilliers : 41 av. Grésillons
92230 Gennevilliers 01.4132.2626
*同じコンセプトで今年10月に静岡、宮崎、富士見の各市で公演予定。フランスから行く女優4名は各地で地元の演出家、住民とワークショップを開き公演に臨む。