●Florence Cestac “Je voudrais me suicider mais j’ai pas le temps”
ロバート・クラムの新作『創世記』を買いにいったら売り切れ。がっかりしていたら目に飛び込んできたのがフロランス・セスタックの新作だ。彼女は「Les Déblok デブロック一家(完全に狂っているけれど底抜けに楽しく明るい家族。良識ある母は失神間違いなし!)」の連作などで、2000年にアングレームの国際BDフェスティバルでグランプリをとっているえらい人。ちょっと個人的に会ったことがあるけれど、丸顔、大きめの団子鼻、目がくりくりとよく動く(彼女の登場人物そっくり!)優しいおばさんだった。
今度の新作は、小説家でBDも描くジャン・トゥレのシナリオで、主人公は実在したBD作家のシャルリー・シュランゴ。筋萎縮症で下肢が歪んで杖をつくようになり、いじめの対象になった少年期から、それをはね返してたくましく育ち、BD作家になることを決心し、インモラルでハレンチな雑誌〈Hara-Kiri〉集団に加わり、常におごってもらって浴びるほどに酒を飲んでは、げろを吐き続け、でもなぜか女には大モテ、49歳で転倒して死んだ。こんな無頼につかまったら、悲劇だ。一度おごったらおごりっぱなし、断ったらとことん嫌われる。でもなぜか憎めない。なぜだろう。そこに人生の秘密がありそうだ。こんな人間が少なくなってしまった!
〈ラ・メシャンステ〉という愛犬がタンタンのミルーよりかわいいよ!(真)
Dargaud社発行。18€。