創業201年の魔法のブティックの舞台裏。 Mayette Magie Moderne
ご主人のトランさんが助手のセドリックさんに「取材のために写真を撮ってもらってもいいけれど、もしもトリックのカードや偽の親指が転がっていたらマジックで消すようにね!」。ここは今年で201年を迎える世界一古いマジックの店。店の奥に立ち入ることができても、どんなふうに作られているかの秘密は明かしてもらえそうもない。
店内の仕事机には、10種類以上のマジックカードがところ狭しと置かれている(「写真はだめだよ! とトランさん)。これだって、後で地下室で目にするものに比べればほんの序の口だ。地下の倉庫には、1000種類にものぼるカード、ロープ、ビーズの箱やマッチ箱、リボンやオペラハットなど、おびただしい数の道具が整然と並び、「エロチックな針」と書かれた引き出しもある。
セドリックさんが簡単なマジックの組み立てを披露してくれるが、やっぱり写真を撮らせてはもらえない。この店の半数以上のマジックがこの店内で作られている。時には外部に部品を発注することもあるが、どういう用途で使われるかは、業者にすら知らされることのない極秘情報なのだ。
「若い初心者も買いにくるけれど、マジックで孫を驚かせたいおじいちゃん、おばあちゃんたちもよく来るんだよ」と言いながらトランさんが披露してくれたのは、ベストセラー商品〈Impression〉。白紙のカードに模様が現れる、文字どおり印刷のマジックだ。次は、客から拝借した紙幣を手の上で宙に浮かび上がらせ、ペンで紙幣を確かに貫通するが、客の手元に返された紙幣には何の形跡もないというマジック。がく然として声も出ない客たち…。「これらはみんな、初心者にもできるマジックだけど、奥さんの体を二つに切断したい人のための高度なマジック図解も売っているよ」
ちょうどその時、恋人を連れた若いマジシャンが店にやってきた。紙幣のマジックについて聞きたいことがあるらしい。恋人がこっそりと「もっと観客に見ばえのいい芸に手を出してほしいんだけど」と言う。さらに聞き出してみると、思ったとおり、彼のマジックをだしにして彼女自身が舞台に上がってみたいのだ。初めて店を訪れた客が〈印刷〉の芸に度肝を抜かれている傍ら、別の女性客の「白いハトを出現させる芸を身に付けたいのだけど、どのようにして鳩を調教するの? 雄と雌とどちらが適しているの?」という質問に間髪入れず答えるトランさん。「調教の必要はないよ。必ず雌を選ぶように」巧みな話術でいつの間にか女性客がバネ式の花束を買うように仕向けていく。
すぐそばのノートルダム大聖堂で何時間も行列するくらいなら、トランさんに会いに行ってみよう。より大きな衝撃を受けられるに違いない。(ジ)
「簡単なマジックの組み立て…。でも、肝心なところの写真は撮らないでくださいね」
Magie Mayette Moderne :
8 rue des Carmes 5e 01.4354.1363
M°Maubert Mutualité
14h-19h30 (木-21h)。日月祝休。