7月に延べ7万5千人の来場者を記録し、好評のうちに幕を閉じた市民のための映画祭〈パリ・シネマ〉。個人的には、核となる長編コンペ部門のレベルの高さに驚いた。そこで今回はコンペ作の中から、近々に一般公開予定の作品を紹介したい。 「一本だけ」と言われたら迷わず挙げたいのが、〈観客賞〉を受賞の『La Nana (仏題はla bonne)』。偏屈で無口のお手伝いさんが主人公で、地味ながらも人間関係の本質も突くチリ映画である。厳しいのに温かいまなざしをも持つ本作は10月7日に公開だ。監督はセバスチャン・シルヴァ。 公開日は未定だが、〈将来有望賞〉をとったアミール・ナデリ監督の『Vegas: Based on a True Story』も秀逸。自宅の庭にあるらしい埋蔵金に心奪われ、少しずつ人生のバランスを崩していく男の姿は、なぜか他人ごととは思えない。 ちなみに本映画祭のコンペ部門は基本的に「ほぼ新人」に門戸が開かれているが、昨年の日本の山田洋次監督同様に、このナデリ監督もかなりのベテラン。だが世界的に見て「もっと知られても良い監督」だと〈将来有望賞〉まであげてしまう。こんなフレキシブルさも本映画祭の魅力だ。 〈審査員賞〉を受賞したジョージ・オヴァシュヴィリ監督の『L’Autre Rive』も忘れ難い。トビリシ近郊から、戦火で荒廃したアブハジア自治共和国に渡り父を探す少年の日々を綴ったグルジア&カザフスタン映画だ。また受賞は逃したが8月5日公開のエラン・メラヴ監督作品『Zion et son frère』も、快走を続けて久しいイスラエル映画の底力を見せつける。思春期の兄弟の関係を丁寧に見つめた本作は、もとをたどれば〈パリ・シネマ〉が製作のバックアップもしている。毎年映画祭内でプロ向けのミーティングがお膳立てされているのだが、本作は4年前に企画が持ち込まれたもの。それが時を経て、今年完成品となり登場したというわけだ。とりわけ映画の未来に意識的な〈パリ・シネマ〉の今後に期待したい。(瑞) |
La Nana
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