6月7日の欧州議会議員選でイル・ド・フランス選挙区に流星の如く到来したのが欧州エコロジー代表ダニエル・コンベンディット。彼はフランス史に残る68年騒動の火付け役。40年後、今度はカルチエラタンではなくフランス政界に「熱い敷石」を投じる。
彼は、ナチス・ドイツからフランスに亡命したユダヤ人家庭に生まれる。兄のガビは仏国籍を取得したが、彼はフランスの徴兵を避けるためにドイツ国籍を取得。60年代にナンテール大学で社会学を専攻、68年騒動後、国外退去処分に。フランクフルトに本拠を構え、ドイツでエコロジー勢力をのばし、EU議会議員を務めてきた。
投票日直前まで、「今の経済危機に対してエコロジー派に何ができる? 」「 すでに2回緑の党候補として失敗しているあのダニーに…」とバカにされていた。それが彼が率いる欧州エコロジーがパリ他、地方都市で社会党を上回る得票率で平均16.28%を獲得。オブリ第一書記が率いる社会党は日に日に支持率が下降線をたどりエコロジー派にジリジリ追いつめられ、予想得票率19%をはるかに下回る16.48%で惨敗。支持者の間でも「社会党の終焉(しゅうえん)?」とささやかれるほど。第3党として自信満々だったバイルーが率いる民主運動党MoDem(8.5%)も欧州エコロジーが大幅に引き離す。棄権率59%にもかかわらず予想以上の得票率28%を収めたのは与党民衆運動連合 UMPで、サルコジ大統領の笑いが止まらない。
コンベンディットが指揮する欧州エコロジーは党ではなく、緑の党他、遺伝子組み換えに反対する農民出のボヴェ、エコロジー番組のスター、ニコラ・ユロ、省エネ・自然保護団体などが結集した運動体だ。そして注目すべきは、イル・ド・フランス候補としてエヴァ・ジョリが加わったこと。彼女は知る人ぞ知る、90年代に元国営石油会社ELFの政財界収賄疑惑を追跡した予審判事だ。同調査で仏政財界人に嫌われ、母国ノルウェーに戻り汚職追放のため政府顧問を務める。昨年、バイルー党首に接近したが鼻であしらわれた彼女を待ってましたとばかりコンベンディットが抱き込む。金融サミットでも問題になったオフショアパラダイスと闘うには彼女こそ適役。欧州エコロジーが掲げる目標は、金融界の規制化や省エネに力を入れるオバマ米大統領の姿勢と重なる部分が多く、中層・エリート層に投票者が多かったのもうなずける。
コンベンディットは政党をつくるよりも、既成政党にのまれることなく経済・社会・環境すべてに通じる政治環境変革の「中軸」となることを目指す。末期的資本主義によるグローバル化や金融危機、地球温暖化を案ずる市民の意識変化のうねりのなかで10年、20年先のEU社会を先取りしたのが欧州エコロジーといえる。68年世代の返り咲きがもたらした新鮮な芽をサルコジ大統領が見逃すはずない。6月18日、コンベンディットらをエリゼ宮に招き「協力し合おうよ」と甘い言葉で誘う。(君)
写真:6月9日付リベラシオン紙の表紙。