コメディアンのデュードネ(43)が、〈反シオニズム党 Parti antisioniste〉を創立して、欧州議会選に出馬したことが、今回の欧州議会選挙で大いに議論の対象になった。
デュードネは1966年パリ郊外に生まれる。母はフランス人で社会学者、父はカメルーン出身の会計士。コメディアンになってからは、 エリ・スムンとコンビを組み、人種差別などの社会問題を茶化すネタで人気を得る。2000年以前は、黒人の社会的地位向上の運動に加わったり、「不法移民に滞在許可証を」、「ホームレスに住居を」などを要求する市民団体を支持。人種差別をあからさまにする極右の国民戦線党にも真っ向から対立していた。また、シオニズムを根拠にパレスチナへの植民政策を進めているイスラエルにも反対の立場をとっていた。ところが、2000年以降、こうした「反シオニズム」が「反ユダヤ主義」に傾いて人種差別的な発言が増えてくる。
2002年には「(ユダヤ人たちは)一国をつくり上げ、金もうけをするためにホロコーストを安売りした」とネット上で発言。2003年にはテレビ番組で超保守的ユダヤ人に変装し、スタジオにいた郊外の若者たちに向かって「仕事が見つかるように親米=シオニズム軸に加わりなさい」と叫びながら右腕を真っ直ぐに伸ばすナチスの敬礼。2005年には、ユダヤ人を「銀行と、ショービジネスと、テロ活動に改宗した奴隷商人であり、奴隷売買で大帝国と富を築いた」と決めつける発言をし、有罪判決。このころから反ユダヤ主義の立場をとる国民戦線党党首のルペンに接近する。2008年のワンマンショーには、ホロコースト否認論者のロベール・フォーリソンを登場させ、デュードネを支持してきたコメディアンのエリ・スムンやジャメルらをあ然とさせる。娘の洗礼の際に、ルペンに代父になってもらったことも、マスコミの話題になった。
今年の3月21日、パリのマンドール劇場で記者会見を開き、欧州議会選挙のイル・ド・フランス選挙区に「反シオニズム党」のリストを率いて立候補する宣言。5月3日、ゲアン大統領府官房長官は、デュードネ出馬を禁止する法的措置の可能性を検討したいと発言したが、最終的に阻止はできなかった。開票の結果、パリ市での同リストの得票率は1%。アラブ系の移民が多い19区では約2%に達した。
反シオニズムと反ユダヤ主義を意識的に重ね合わせるデュードネの考え方は、皮肉にも彼が批判するシオニストたちを助けているといえるだろう。というのも、シオニストたちは、イスラエルのパレスチナ植民政策を批判する反シオニズムは、反ユダヤ主義にほかならないと主張して、批判の口を封じようとしているのだから。(真)
写真:反シオニズム党の選挙ポスター。
右から二人目がデュードネ。