ジャン・ラシーヌが1670年に発表したこの戯曲では、父ウェスパシアヌスの死後、皇帝の座を継いだ息子ティチュスと、彼と愛人関係にあるパレスチナの女王ベレニス、そしてティチュスとは信頼関係にあり、またベレニスへ密かに想いをよせるアンティオキュス、の三角関係が描かれる。ローマ帝国の掟では皇帝はローマ人以外と婚姻関係を持つことができない。権力と愛の間でティチュスの心は揺れ、結局アンティオキュスを介してベレニスに別れを告げる。ところが、ベレニスをあきらめきれないティチュスは最後には権力と愛の両方を手に入れようとする。しかし一度ティチュスから拒まれたベレニスはティチュスの愛を拒絶する。
コンゴ出身の演出家フォースタン・リンイェクラは、ベレニスが「異邦人」であることに重きを置き、ベレニスの運命を20世紀以降、多くの「異邦人」たちが直面してきた運命に重ねる。 ベレニスの存在は「諦観」と「断念」そして「孤独」という言葉に象徴される。これまでにどれだけ多くの異邦人たちがベレニスのように運命にあらがえず自らを犠牲としてきたことか。
コメディー・フランセーズの役者によって構成される配役に意表をつかれる。役者たちも自らのアイデンティティと完全に「異邦人」であるために、ベレニス役は男性、ティチュス役は黒人男性、そしてアンティオキュス役は女性によって演じられる。ミニマムな舞台装置とシンプルな衣装、ラシーヌの筆から生まれた美しい言語が流れるように耳に入ってくる。愛し合っていても結ばれることのないベレニスとティチュス、最後にベレニスへの愛を告白せずにはいられないアンティオキュス…なんという悲劇!(海)
Théâtre de Gennevilliers : 41 av. des
Grésillons, Gennevilliers 01.4132.2610
M°Gabriel Péri 6/14迄。水金土20h30、
火木19h30。 5€-22€。