夕方幼稚園に迎えに行くと、ミラが「取れちゃうみたい」と口を開けてきた。下の歯が一本グラグラだ。乳歯が生えかわるのだ。フランスでは、抜けた乳歯を枕の下に入れておくと、夜の間にネズミがやって来て、歯をコインに取り替えてくれるという。フランス式は物語性があるなと感心。ワクワクしながら歯が落ちるのを待った。
ところが待てども待てども乳歯は抜けない。気がつくと2週間が経過。興奮も冷めかけたころ、ようやくバゲットを食べるミラの口から歯が吐き出された。夜になり、ミラは歯をティッシュにくるんだ。そして「枕の下だとネズミが気がつかないかも」と、枕の上に置いて寝た。危うく私も一緒に寝かけたが、なんとか起き直し、ミラの乳歯を数枚の硬貨に替えておいた。
朝がきた。ミラはすぐに小銭を発見。しかしなんだか不思議顔。「あれ、ママが入れたのかなあ…」。日本のお金が混ざっているのを見て悩み始めたのだ。私は、前にミラが「サンタは本当はいない」と言っていたので、「もうおとぎばなしを信じる年じゃないのか」と、ついつい演出のツメを甘くしてしまったのだ。どうやら子供心は、大人が思う以上に複雑らしい。「信じる・信じない」の二者択一を超えた、大人なんぞには計り知れない絶妙なロマンを生きているのだろうか。だとしたら、やはりこの手の演出は、最後まで手を抜くべきではなかったのだ。(瑞)