『愛しかない時』、『行かないで』、『アムステルダム』、『フランドル女たち』、『オルリー空港』などで知られるシャンソン歌手ジャック・ブレルが亡くなって、この10月でちょうど30年。命日の前日に当たる10月8日、彼の写真やポスター、ギターや曲の草稿などがパリで競売にかけられた。一番の高値がついたのは、一曲ができあがるまでの苦労が忍ばれる『アムステルダム』の草稿で、11万ユーロで落札された。「アムステルダムの港では、船乗りたちが死んでいく。朝の光の中、ビールと人生のドラマにまみれながら…Dans le port d’Amsterdam Y a des marins qui meurent Pleins de bière et de drames Aux premières lueurs…」
1929年、ベルギーのブリュッセル近郊で生まれる。父は中小企業の経営者。早くから歌や演劇に興味を持ち、1950年ごろから自作をナイトクラブで歌うようになる。1954年には初のアルバムを発表。この中の一曲をジュリエット・グレコが歌って、彼の名は知られるようになる。1957年に『愛しかない時 Quand on n’a que l’amour』が大ヒット。その後も、普通の人たちの普通の愛や死を、ユーモアも交えながら切々と、時にはドラマチックに歌い続ける。70年代に入ってからは役者としても渋い演技で活躍していたが、1973年にフランス領ポリネシアに移住。1977年にパリに戻り、最後の傑作アルバム『Les Marquises』を録音して大好評を得たが、1978年、肺がんが再発して亡くなった。(真)