●Frédéric Daverio “Silence…on tourne”
「フレデリック・ダヴェリオが細かにアコーデオンを震わせると、たちどころにどこか不安げな街角の喧噪が浮かび上がり、通りに面した窓から優しい歌が流れてきて、行き交う人々のさまざまな心の揺れが見えてくる。それぞれ珠玉の小曲たちが、極上の短編映画のような物語を持っている」とオヴニーに書いてから10年経ち、ようやく待ちに待っていた彼の新アルバムが出た。
この新作も『撮影開始、静かに!』というタイトルからうかがえるように、ダヴェリオの物語性に満ちた小宇宙が表現されている。前のアルバム以上に、演奏者とアコーデオンが一体になって歌っている。時々、タンゴやワルツの音色も聞こえてくるが、それも、心のフィルターを通った、夢の中で響いているような遠さ、近さがあるのが、美しい。(真)
★★★ Barbara “l’Atelier Bruxelles 1954” (Le Chant du Monde)
昨年は、バルバラ没後10周年。1954年、ブリュッセルのアトリエ座での彼女の初リサイタルをオープン・リールに収録したものが、昨年末に、CD化され大いに話題になった。
半世紀以上経ってよみがえった当時のバルバラの声は別人のよう。歌い回しが洗練されていなく、野暮ったく、ミュージック・ホール時代の歌手のスタイルから抜け切れていないが、なぜか不思議な魅力を感じさせる異質のアルバムだ。
アリスティッド・ブリュアンの代表作『サン・ラザール』、イヴェット・ギルベールが歌った『マダム・アルテュール』などの古典から、ブレルの『広場で』、ヴォケールが歌った『フレデ』、グレコが歌った『ロマンス』、『郵便ポストの御夫人たち』ほか、マリアンヌ・オズワルドのレパートリーも歌っている。(南)