サンフランシスコにあるサンクエンティン刑務所。今は亡きジョニー・キャッシュが1969年にここで歌ってライブ盤を出したことは有名だが、毎週ジャズバンドが演奏していたことを知っている人は少ないだろう。
1957年に、進歩的な思想のフレッド・ディクソンがここの所長になり、音楽、演劇、絵など芸術を通じての更正を試みる。こうした試みのクライマックスの一つは1962年1月29日。サンフランシスコの前衛劇団による、全米でもほとんど知られていなかった『ゴドーを待ちながら』上演の後に、服役者5人によるジャズ演奏。リーダーはアルトサックスのアート・ペッパー。彼は麻薬所持の罪で服役中だった。他にはサックス奏者のフランク・モーガンやトランペッターのデュプリー・ボルトンなどが服役していた。ディクソン所長は、外から教師に来てもらって音楽を知らない服役者への音楽教育にも力を入れた。毎日夕方になると、絞首刑用の柱も置いてある音楽室で、プロ、アマ混じってのセッションが繰り広げられた。そして土曜日になると、やはり服役者たちによるダンスやアクロバットの合間に、サンクエンティン・ビッグバンドが演奏し、外からもやってきた観客の拍手を浴びた。
刑務所を出てプロになった服役者は数少ないし、同じような罪を重ねて刑務所に舞い戻った例も多い。しかし、大切なのは服役という厳しい条件の中で、音楽を一緒にやる時に感じた生きる喜びと解放感だったのだろう。何年ぶりにサックスで『ラウンド・ミッドナイト』を吹いたヴァーディ・ウッドワードは言う。「サックスをひざに置いていると、不安も消え、おそらくこんな素晴らしい気分は二度と味わえないだろうと感じられる」(真)
著者はジャーナリストのピエール・ブリアンソン。刑務所内の新聞や体験者の著作、インタビューなどをもとにした生き生きとしドキュメント。Grasset社発行。19.5€。