イタリアのパルマ、スペインのセラーノ、ドイツのラックスシンケン、ヌスシンケン…。ヨーロッパには絶品生ハムが数多いが、フランスだって負けてない。我らにはバイヨンヌ様があるのだから。とうわけで今回は、バスク地方の町バイヨンヌにあるハム製造所の見学会に参加した。 案内してくれるのはピエールさん。「私はハムのアルチザン(職人)。うちのハムこそ本家本元!」と言い切る、頼もしいご主人の説明が始まる。「ハムの製造過程はいたってシンプル。salage(塩漬け)とséchage(乾燥)の二つの作業からなる。そして熟練の技を必要とするのはsalageの方」。そう言いながら、塩漬け用の部屋から豚肉を出し、見学者に見せてくれた。肉の表面が塩で化粧され、黄金色に神々しく輝いている。心なしか得意げなピエールさんの眼鏡もキラリと輝く。「保存のためにも塩は大量に使用すると思われがちだが、塩けが勝たないように、なるべく控えめにするのがポイント。その量を見極めるのが難しい」のだとか。味付けには他にも、胡椒、酢、香草、ニンニク、そしてバスク地方の名産品であるエスプレットの唐辛子粉が加えられる。そして豚は、政府公認の品質保証「ラベル・ルージュ」に当てはまる体重約150キロ、月齢9カ月ごろのものだけを使用する。「豚は年をとると脂が付き過ぎ味が薄まるが、9カ月ごろの豚は肉にまだ味わいがある」のがその理由。そんなこだわりの豚そのものの味を殺さないためにも、余計に塩を付け過ぎてはいけないのだ。 それから、肉の乾燥室へ移動する。目の前には無数の豚肉の大群がぶら下げられている。普段、大型スーパーなどでこのような豚のお尻のビッグな固まりを見るのが好きな私としては、なぜか無性に血が騒ぐ光景だ。ピエールさんは室内の温度調節に細心の注意を払いながら、ハムをゆっくりじっくりと乾燥させ、塩漬けからトータルで約10カ月かけて完成させるのだ。 最後はお楽しみの味見タイム。本当は、原始人がお肉を食べるように、大きい固まりをそのまま丸かじりしてみたいという夢もあるのだが、今回は本来の食べ方どおりスライスで我慢。だが、さすがにこだわりの微妙な塩味が口に広がり、文句なしに美味だった。(瑞) |
Pierre Ibaialde : 41 rue des Cordeliers www.pierre-ibaialde.com |
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