爆撃の廃墟で勝ち誇る「ヒズボラ」組織。

 7月12日、レバノンのイスラム教シーア派組織「ヒズボラ」がイスラエル兵2人を拉致したことから始まったイスラエル軍による大規模なレバノン南部の空爆と、ヒズボラ民兵軍によるロケット弾によるゲリラ戦が8月14日、国連安保理での停戦決議に至るまで1カ月以上続いた。その間、約100万人の住民がシリア方面や北部に避難、ヒズボラ組織が根をはる南部では、市民が避難していた建物を含む市街のほとんどの建物と下部構造まで爆撃され、カナの爆撃では子供を含む避難者57人が死亡。パレスチナ難民が流れ込んだ70年代から90年まで続いたイスラム教徒とキリスト教徒の内戦後の廃墟に戻ったよう。
 イスラエルの国境地帯に1978年から駐留する国連レバノン暫定軍UNIFIL増強(1万5千人)の決議に対し、1983年にシーア派テロで仏兵58人を失った仏政府は、UNIFILへの仏軍派兵は200人と渋っていたが、シラク大統領が2000人派兵(+海軍航空隊1700人)と発表。3000人を送るイタリアと主導権を競うかたちで、来年2月まで仏軍がUNIFILを指揮し、その後はイタリア軍の指揮下に移る。
 レバノンは「モザイク国家」と呼ばれるようにイスラム教徒だけでもシーア派35%、スンニ派22%、ドルーズ派(イスマイル派分派)8%。キリスト教徒はマロン派20%、ギリシャ正教・カトリック・プロテスタント他15%と、中東でも特異な国情をもつ。
 ナスララ師が率いるヒズボラ組織の政党「神の党」は国会で35議席(計128)を占め、大臣も2人出している。同組織は病院から学校、福祉機関まで備え住民と密着し、民兵組織もベトコン同様、政府軍も入り込めない「国家の中の国家」をなしているという。同組織を後押ししているのがイランとシリアだ。イランはヒズボラを「イラン・シーア派の分家」として軍事資金だけでも年1億ドルを投入、同組織の民兵はイラン革命防衛隊が指導するという密接な関係を保っている。 
 難航する核問題で安保理の経済制裁が下るかどうかのイランだが、アフマディネジャド大統領の言「イスラエルを地図から削除する」は有名。イスラエル軍の新鋭爆撃機によるレバノン空爆はイランへの牽制球だったのでは。
 こうした情勢の中でエジプト他、アラブ民族主義諸国が恐れているのは、イランを中心にシーア派勢力が伸びていくことだろう。「自由と民主主義」のためにイスラム過激派テロと戦う米国。シーア派体制構築のために核兵器の保有も辞さないイラン。東西冷戦時代に似た「西洋・中東」時代の到来を予想せずにはいられないのである。(君)