アダムとイヴの禁断のリンゴから、美の女神アフロディーテのザクロの実、アラビア諸国のナツメヤシなど、古くから恋の鍵を握る食べ物が伝えられてきた。例えば、ブルボン朝のルイ13世とアンヌ・ドートリッシュが、のちに太陽王と呼ばれるルイ14世を授かったのは、なんと結婚後22年目の、ともに37歳を迎えた年だ。長年、子宝に恵まれなかった王家の危機を救ったのは、特別配合の媚薬にあったそうな。千夜一夜物語にも、生姜、コショウ、シナモン、コリアンダー、カルダモンなど、様々なスパイスを調合した媚薬が登場する。中世から伝わる、摩訶不思議な効果をもたらす媚薬。この現代版を試してみた。まずは、辛口の白ワインにシナモンとバニラ棒、生姜を入れて、2日間じっくり冷蔵庫に寝かせる。事はあせらず!
ワインにスパイスの味が馴染んだころを見計らって、シェイカーにコニャック、卵、砂糖きびのシロップとナツメグをとり、力いっぱいシェイクする。ここに先ほどのワインを加え、さらにシェイクし、こし器でこす。しばらく冷蔵庫で休ませる間に、グラスの準備を。よく冷えたグラスを逆さにして、オレンジの絞り汁に浸した後、グラスの縁に砂糖で淡雪の飾りをほどこす。そして夕暮れがせまるころ、辺りに漂う甘くスパイシーな香り…。今宵は始まったばかりだ。(咲)
辛口の白ワイン350cc コニャック30cc シナモン棒3本 バニラ棒1本 生姜の千切り5〜6枚 卵1個 砂糖きびのシロップ30g ナツメグひとつまみ オレンジの絞り汁1/4個 飾り用の砂糖
催淫作用をもたらす食材
現代で恋のキューピット役を担う食材といえば、何といってもチョコレート。とびきり上等なチョコレートは、軽い興奮作用をもたらし、恍惚な気分にもさせる。またトリュフやキャビアなどの高級食材をはじめ、カキ、オマール海老、ザリガニなどの甲殻類、脳みそや腎臓のなどの臓物類にも催淫作用がたっぷりだ。中世から伝わるナツメグ、唐辛子、サフラン、八角、バニラ、サリエット、ミントなどは、組み合わせ次第で、どんどん料理に取り入れられそう。例えば、前菜にザリガニのサラダ生姜風味、主菜にリ・ド・ヴォーのバニラソース、デザートにコショウ入りのチョコレート菓子、そして食後をミントティーでしめくくるのはどうだろう。もちろん食前の媚薬カクテルも忘れないで。 (咲)
パリ20区のペール・ラシェーズ墓地には現在、約50の霊媒師、霊視者らの墓がある。中でも有名なのが故アラン・カルデックの墓。もともとはパリで科学の教師をしていたが、磁気への興味から霊媒によって回転するテーブルの研究を始めた人物だ。1857年には、スピリチュアリズム教義の重要な基本書とも言える『霊の書』を出版し、世界的なベストセラーになる。以後、交霊術理論家の第一人者として、死後も尊敬を一身に受けているのだという。
灼熱の夏の昼下がり。墓地に人はまばらであったが、カルデックの貫禄たっぷりの胸像の前には、無口な訪問者が1人、2人、祈りを捧げていた。回りには荒れ果てた墓も多いが、彼の墓は絶えず美しいお花の捧げもので華やか。この世は生きているうちも死んでからもはっきりと不公平というわけだ。50代の女性は、まず立派なお花の鉢植えを捧げた後、目をとじて布のようなもので胸像を横から撫で始めた。また40代のジョギング途中のようなランニング姿の男性は、像の前で目を閉じ頭をうなだれ瞑想している。その後、清掃係の男性が来て、「ここに来れば、あの世の人と交流できるんだよ」とそっと教えてくれた。ええっ、そんなことが果たして本当に可能なのだろうか。しかし訪問者たちの真剣な面持ちを見ていると、なんだか本当に彼らは、天国の愛しい誰かと交信しているように思えてしまうのだ。(瑞)Allan
Kardecの墓はペール・ラシェーズ墓地44区域内にある。他にも、霊媒師Rufina Noeggerath (94区域)、霊能者Mademoiselle Lenormand (3区域)、神秘学者Gérard Encausse dit Papus
(93区域)などがある。