パリの街の壁を飾る落書きアートのスターの一人がミスティック。ポシュワール(型版)による、セクシーでちょっと攻撃的な黒髪の女。その脇に「私が好きになるように私を変えて」、「私は見知らぬ人が好き」、「年と共に愛はますます肉体的に」などのメッセージがついている。そんな作品の前を行ったり来たりしているうちに、ミスティックの世界はいつの間にか心にしみ込んでくる。 1956年、パリの10区で生まれる。父はチュニジア出身の労働者、母はノルマンディーの農家出身。10歳の時、交通事故で母と弟を失い、彼女自身右手の自由を失う。16歳の時に父が死亡。引き取られた家庭でもこき使われ、高校生の時に家出し、自活し始める。そんな青春時代に「現実を茶番とみなす」と言い切るような彼女の強靱さのルーツがありそうだ。 ラアディアという本名を捨ててミスティックと名乗り、「境界を侵す。倦怠を混乱させる。情熱を創り出す」をモットーに、パリの壁に作品を溢れさせるようになってちょうど20年。それを祝って11月末にはモンマルトルの画廊で個展が開催され、多数のファンが押しかけた。(真) |