カンヌでは未完成版の上映と、公開前から話題が絶えなかったウォン・カーウァイの新作。トニー・レオン、コン・リー、フェイ・ウォン、チャン・ ツィイー、木村拓哉と、ほとんど悪趣味にも映るほどの豪華キャストが集う。1966年、香港。ホテルの一室に居を構えるのは、虚無的なヒゲ男チャウ(前作『In the mood for love 花様年華』と同人物)。彼は、時空を越え現在と2046年を往復する列車に乗ることで、失われた愛を探そうとする男の物語を執筆中だ。そんな近未来小説と、チャウの前を通り過ぎる女たちとの淡いエピソードが、ねじれた時間軸の中で交錯する。恋愛至上主義を貫く巨匠の新たな到達点だ。過去の恋に囚われる、人工的なのに艶かしい生きた亡霊のような人々が痛々しい。だが、自己模倣の限界点が近づいているのか、『Chungking Express 恋する惑星』の浮遊するような恋の高揚感や、『In the mood for love』の欲望が画面で震えているような一瞬に拮抗する場面は、ついに見られなかった。(瑞)
●Eternal Sunshine of The Spotless Mind
ビョークのビデオクリップ監督でもある仏人ミシェル・ゴンドリーの長編第二作。彼女への腹いせに、コンピュータを使った新種の脳操作で、彼女の記憶をすべて消そうとする男。だが出会ったころの気分が蘇るにつれ決心は揺らぐが、すでに時は遅く…。すっかり演技派のジム・キャリーを筆頭に、ハリウッドの役者陣が、想像力で勝負のインディペンデント的な自由な空気に包まれ気持ち良さそう。倦怠期カップルが見ると、ほろっとさせられるかもの好編だ。(瑞)