米国のジャーナリストがパリを描くと…
Adam GOPNIK DE PARIS A LA LUNE
パりを発見するには、「一人の外国人の眼を通して」というのが一番いい方法ではないだろうか。ニューヨーカー誌に寄稿しているアダム・ゴプニックは、この一冊で、フランスの美味、アパート探し、1998年のサッカーワールドカップなどを取り上げながら、5年間にわたるパリ生活を、フランス人独特の生活ぶりを、ユーモアと知性あふれる筆致で報告している。
こうした本につきものの話が並んでいるようだが、著者は、パリ左岸、サンジェルマン界隈の裕福な知識人たちの取り巻きの一人となって、観察がみごとに行き届いた精密な「研究」を展開している。お金に不自由しない常連たちが、ソルボンヌの伝統を守るためと、有名なブラッスリー「ル・バルザール」に押しかけて居座ってしまう逸話などは、とにかくおもしろい。もう少し真剣な、シラクとジョスパンの関係、パポン裁判といった政治・社会問題についての考察もある。パリという首都に住みつこうと思っている人、異なる視点によるフランスを知りたい人に、大推薦。(ジェレミー)
Nil Editions社 20€
アンリ4世も「死体のように臭かった」
Georges VIGARELLO Le Propre et le sale
「食事の席で頭を掻いたり、首や背中の害虫をつかまえて人の前でつぶすのはマナー違反」。14世紀の公文書の記述だという。この本は、現在でも「汚い、不潔」と評判のフランス人の、その不名誉なルーツを解き明かす。専門家によって書かれた歴史的考察なのだが、珍妙な小話が詰まった物語として十分楽しめるだろう。フランス人は実際、何世紀もの間、お風呂に縁が薄かった。一握りの裕福な層が、結婚、逢い引き、旅行などの特別な機会に体を洗った。アンリ4世でさえ「死体のように臭う男」と評された。体を清潔にするには、シラミ取りをし合う方が一般的で、器用なおばさんの中には、シラミ取り屋を開いた者までいた。また、洋服を変えなくてもすむように、粉や香水をふんだんにつけていた。17世紀、王女の洋服が入った箱を開けた召使いは、あまりの臭さに卒倒しかけたという。なぜ中世の人々はこんなにも汚かったのか。著者によると、当時の人々の清潔の概念は水と深い関わりがある。というのも、水、特にお湯は肌に浸み込み、体を弱らせ病気を引き起こすと信じられていたという。フランス人はこんな困った先祖を持っているのだから、少々不潔でも大目に見てほしい。(alex)
Seuil社 7.56€
フランス人の子育てに大きな影響力。
Francoise DOLTO Lorsque l’enfant parait
心理学者フランソワーズ・ドルトが、1976年からラジオの子育て相談番組に参加していた時の模様を収録したのが、3巻にわたるこのシリーズ。まさに幼児がいる家庭のバイブル的存在だ。ドルトは、まだおしゃべりができない小さな子供にも、嘘やごまかしを避け、言葉で説明することの大切さを説く。掃除機の音を怖がる生後2週間の赤ちゃんには、抱きながら「これは掃除機の音よ」と説明するし、もうすぐ保育園に通う3カ月の赤ちゃんには、「預けるのは辛いけど、仕事があるの」と言って聞かせる。この子供への信頼を軸にした「ドルト方式」は、フランスではすっかり根付いているようで、私の娘が通う保育園でも、保母さんの態度からその影響が見て取れる。
フランス人は日本人にくらべて言葉で説明することを重んじ、状況をごまかしその場を取り繕うこと(愛想笑いもしないし)をあまりしないのは、もしやドルト効果の現れなのかもしれない。離婚、TV、バイリンガル問題など、現代的な話題もおさえてあり、今でも十分効力を発揮してくれる、古びることのない一冊だ。邦訳もある。(瑞)
Seuil社 各5.23€
ドルト先生の心理相談
全3巻
村上光彦ほか(訳)みすず書房2730円/2940円(税込み)
小説でひと昔前の中のフランス社会を勉強する。
マルタン・デュ・ガールの『チボー家の人々』(白水社)では、第一次世界大戦前のブルジョワ階級の生活ぶりや反戦運動を知ることができる。クノーの『地下鉄のザジ』(中公文庫)からは、50年代のパリの庶民たちの元気の良さが伝わってくる。弾むような会話の面白さは比類がない。
Folio 6.94€
Folio 2.85€