“Il est plus facile pour un chameau… “
バレエ教室に通うフレデリカ(ヴァレリア・ブルーニ=テデスキ)が「上手くはないけど彼女の跳躍を見習いなさい」と他の生徒の前で先生に褒められた時のはにかみと誇らしさが入り混じった、何ともいえない表情、この場面にこの映画『Il est plus facile pour un chameau…/ラクダの方が容易に…』の資質が象徴されている。V・B=テデスキは『お節介な天使』や『ENCORE』等々で見せたように、微妙な心理の曖昧さを表現できる女優だ。本作はその彼女の初監督作。実に彼女らしい、不器用だけど愛すべきチャーミングな映画だ。
フレデリカの悩みは金持ちだということ。金持ちであることに罪の意識があるのだ。働かなくても何不自由ない。戯曲を書いているが、恋人(ジャン=ユーグ・アングラード)には暇つぶしとけなされる。昔の愛人(ドゥニ・ポダリデス)との情事が再燃する。カトリック信者だから何かと教会へ懺悔に行く。仲良しの妹(キアラ・マストロヤンニ)とよく喧嘩になる。そんな日々の中で、死の床についている父を見舞う。彼女は三人兄妹の中で一番父に愛されて育った。その父の意外な発言を聞いて彼女は動揺する…。
実はV・B=テデスキ本人もトリノの大金持ちの家の出、70年代にテロを怖れて一家でパリに移住、トップ・モデルで最近は歌手としても活躍中のカルラ・ブルーニは実妹だ。この映画は、そんな彼女のバックグランドを知ってるとより面白く観れる…というのは反則かな? 題名の出典は〈金持ちが天国へ行くよりラクダが針の穴を通る方が容易い〉という聖書の一節。ああ、彼女のように、もしアメリカが金持ちであることに罪の意識を抱く慎みをもっていてくれたなら…時勢ゆえの大脱線が締めで失礼!(吉)
