必要最低限が揃った空間。 RER B線 Cite Universitaire駅 。26m2 家賃3100F。

 フランス有数のお茶ブランド、パレドテのブティックで働くオレリアンくん。今年6月から週に4回パートで接客を担当。パリ第4大学で古代ギリシア文学のDEAを終えた彼は、現在奨学金をもらいながらも見聞を広めるため大学を休学中。来年は復学し論文を書き始める予定だ。
 パリのアパート探しの困難さは有名だが、彼の場合、大学の友だちが以前住んでいた部屋を紹介してくれたので全くの苦労知らず。去年の9月、この1Kの部屋に引っ越してきた。若い男性の一人暮らしだけに勉強机、ベッド、本棚、そしてお茶を飲むテーブルと、必要最低限のものがきちんと揃った機能的な空間だ。越してきたばかりの時は、殺風景で気が滅入ったという白壁も、今は映画のポスターや絵が飾られて賑やかだ。
 「これはお父さんが撮影したアイルランドの写真、これは12歳の妹が描いた絵だよ」。アヌシーに近い小さな村出身のオレリアンくんはとても家族思い。クリスマスに家族に会えるのを今から心待ちにしている。
 「お茶飲みますか?」待ってました! オレリアンくんがウーロン茶Tung Tingを勧めてくれたのだ。手慣れた手つきでタイマーで葉の抽出時間を計りゆっくりお茶をいれてくれる。「お茶は心と時間に余裕がない時は飲めない飲み物なんだ」。彼のお茶談義を聞きながら、ジャスミンに似た芳香が口の中で静かに広がる感触を愉しむ。至福のひととき。
 彼の仕事についても質問してみた。
「実は接客業は初めて。でも高校生の時からコーヒー嫌いでお茶は身近な存在だったから、ぴったりな仕事だよ」。(瑞)



オレリアン君お茶販売こぼれ話
「雑誌の影響だと思うけど、特に女性が最近よく緑茶を購入する。それから健康志向の人たちがお茶を完全に “薬” とみなして、痩せるお茶、便秘に効くお茶、風邪に効くお茶なんかを熱心に探しているのには驚いた。印象に残った出来事といえば、お客さんがお茶を購入する時、香りを確かめることが多いけど、皆いろんなことを言うのが面白い。海苔、ホウレン草、エンバク(馬の飼料)とかね。エンバクと形容していた女性は、確かに顔が長くて馬みたいな顔をしていたっけ(笑)」
オレリアンくんが働くお茶ブティック
*Palais des thes : 61 rue du Cherche-Midi 6e

セルフサービスでお茶が試飲できる。

モンスリ公園

 Cite Universitaire駅のすぐ隣というより、RERの線路がしっかり横切っているのが14区のモンスリ公園。近所に住むオレリアンくんが、「19世紀的な枯れた雰囲気がとても落ち着く」と、よく散歩に訪れる場所だ。彼のお薦めの時間帯は、傾きかけた陽が起伏豊かな芝生に優しく降り注ぐ日没あたり。一人芝生で大の字に寝そべり、優雅に古代ギリシャ文学の本のページをめくるオレリアンくんの姿が目に浮かんでくる。
 さてこの公園にはエピソードが多い。その昔、園内の人工湖の完成お披露目の日、突然理由不明で湖の水がすべて消えてしまい、この失敗に耐え切れなかった技術者が悲嘆のあまり自殺してしまった。また、ここはアニエス・ヴァルダの映画『5時から7時までのクレオ』の撮影地でもある。園内を歩けば、癌の診断結果を待つ歌手クレオの心象風景を実験的な手法で描いたこの作品の中で、クレオが一人ショーガールさながらに歩いた曲がりくねったお洒落な木の階段がすぐに見つかるはず。
 そんな過ぎ去った日々に思いを馳せて、日没のモンスリー公園をゆっくり散歩してみるのも悪くはない。(瑞)

*Le Parc Montsouris : Bd Jourdan 14e