動物保護:鳩の家。1500羽の鳥と暮らす。
「汚いなぁ、あっち行けー」と手や足で鳩を追い払った経験のある人は多いだろう。石を投げたり蹴りを入れる人もいる。あれだけフンで道路を汚したり、得体の知れぬ菌類をばらまくのだから自業自得さ、と最近まで思っていた。ここを訪れるまでは。
「大勢の人が鳩は病気を伝播させると思っていますが、鳩の病気は鳩同士でしか感染しないもの。私は78歳、10年以上鳩と共に暮らしているけれど病気になったことがない。」と言うのはSPOV(町の鳥保護協会)の会長、ナディア・フォントナイユさん。部屋では籠のなかの鳩たちがひっきりなしに羽根をばたつかせている。それも病気持ちか傷を負った鳥たちだ。しかしすぐそばで鳩を両手に取ってエサを与えるサンドラさんは咳ひとつせず若さと美しさに輝いている。「鳩の病気は人間にうつらない」との会長の言葉を信用し(呼吸器系の病気に感染の可能性あり、の説もあるが)この治療室で話を聞こう。
「町なかの鳩の多くはビゼと呼ばれる種類で、もとは岩場に棲む鳥でした。それを食用にするため、又はその昔、美しい鳩を鳩舎に飼うことがステイタスとされたために人間が手なずけたんです。そのせいで鳩は自分たちでエサを見つけられなくなった。彼等には人間が必要なんです。」なのに鳩にエサを与えるのは県令で禁止され、300~3000フランの罰金が科せられる?それは、不条理ではないか。
現在、鳩の駆除は網で捕まえた後箱に入れ、空気を抜いて窒息死させたり、箱に炭酸ガスを入れて殺したりする。殺さずに切開し性器摘出することもあるが、30秒という“手術”時間が示すように雑なもの(それにしても1羽ずつ手術というのも気が遠くなる話)。郊外の数カ所では役所が建物の管理人にクロラローズなる薬を配っている。鳥はこれを摂取すると昏睡状態に陥って行き倒れになり、車にひかれたりゴミ箱に捨てられたり、の運命をたどる。建物に取り付けられた長い針も鳥に致命傷を負わせる。様々な“兵器”による犠牲鳥たち(カササギ、ツバメ、スズメ、伝書鳩・・・)が動物愛護の協会、一般の人、獣医たちによって運び込まれる(でも野生の鳥や鳩ばかりだから、治療費を払う人がいない)。獣医学校でも鳥に関してはあまり勉強しないので学生がここへ学びに来ることもある。ナディアさんは鳥の医学を自分で勉強した。
さて、不条理な人間社会で鳩はどう生きるべきか?協会が提案するのは鳩舎だ。鳩舎のなかに鳩をエサ等と共に10日間ほど閉じこめる。扉を開放、でも、エサは補給。鳩は帰ってきて(帰巣性の強い動物なのだ)ご飯があるので、そこを住処とするようになる。卵を産んだら、人間がそれを振って孵化不可にして巣に戻す。しかしあまり母鳩が落胆すると悪いので、1個か2個は手をつけないでおく・・・という出産制限が可能になる。−糞の問題は?「鳩が糞をするのはエサがある場所。鳩舎の糞を掃除すれば済むことです。」鳩舎は見た目もいい。長い目で見れば経済的でもあるそうだ。パリに350羽ほどが住める鳩舎を設置してもらうのが今の目標。これまでにボビニー、フォントネー・ス・ボワ市などが鳩舎設置に踏み切った。
ここ協会はナディアさんの自宅でもある。1階は事務所、2階の全部屋が治療室。かつての食堂や寝室も今では鳥たちの保養所と化し、ナディアさんは床に寝る。アトリエ(ナディアさんは画家)のある3000m2の庭にも12の鳥籠を設置。大きいもので8畳ほどの広さ、天井の高さ約3メートル、盲目の鳩専用のものもある。自然の状態に近く、と木は伸び放題の庭でアクセル君は毎日3時間、エサや水を配り、掃除をして清潔な砂を床に撒く。(一カ月で1トン半の麦のエサが消費される。)日曜・祭日も関係なく毎日鳥の看病にあたるナディアさん。インタビュー中、徹底した彼女の献身ぶりに驚きっぱなしで私の口は開けっ放
しだったが、病気にはならなかった。協会は現在、後継者を募集中。(美)
Infos pratiques
■医療サービス
ペットの医療サービスは、犬猫病院よりも動物保護協会のほうが料金が安い。
*Assistance aux animaux
24 rue Berlioz
75016 Paris Tel : 01 4067 1004
〈値段比較〉
あるパリ市内の犬猫病院
予防接種:310F 入れ墨+去勢:800F
Assistance aux animaux(動物保護協会)
予防接種:200F 入れ墨+去勢:270F
■アニマル保険
犬・ネコの健康保険
事故・病気 1年で890F
事故 1年で290F
*Groupama assurances
Tel : 0810 029 029