Grimpeur—
山のぼりが得意な選手が優勝をねらう。
● グランプールとアルプス、ピレネー山岳地帯の登りが得意な選手がグランプールgrimpeur。アルプスやピレネー山脈越えはツール最大の難所。走行距離200キロ、標高2000メートル級の山越えを3度する日も珍しくなく、こんな難所を6時間ほどで走破するから驚き。勾配も中型車がローギアでないと登れないような坂道が延々続く。最近はスプリンターよりグランプールでないと優勝できないといっても過言ではない。イタリアのパンターニ、フランスのヴィランクなどが特に有名で、優勝や上位入賞に顔を連ねている。
● 下り坂のスリル
下り坂も驚き。ペダルを回さなくても進むが、プロ選手はさらにペダルを回して下る。時速90キロ以上になることもしばしば。タイムロスを防ぐため落車覚悟でブレーキを減らし、コーナリングをする。特に濃霧時は自殺行為すら感じるスピードで下っていくから凄い。
● 山岳区間では観客も一役
選手にとっては苦難の山も、観客にとっては絶好の観戦ポイント。平地では数十秒で通り過ぎる選手も、山では先頭から最後尾まで数キロの差がつくのでゆっくり見られる(駐車スペースが限られているので、前日から車中泊する覚悟が必要)。中には息も絶え絶えの選手を押してあげたり、水をかけたりできる。下り坂では腹を冷やさないようにと新聞紙を与える “通” もいる。声援だけでなく、サポーターになれるのが山岳コースの良さだろう。赤い水玉マイヨー・ア・ポワがよく似合うリシャール・ヴィランク選手。アルプスで。
アルプスをフラフラで登ってくる最下位選手。思わず沿道の観客が後押し。
Peloton —
プロトンでは戦略が渦を巻いている。
● プロトン
プロトンpelotonとは毛糸玉のこと。ごちゃごちゃしたイメージからか、ツールでは自転車の集団のこと。テレビの画像では気持ちよさそうに進んでいるが、戦略が渦巻いている。他チームのライバルが集団から逃げを打とうとすると、すかさず牽制する選手が追いかける。マイヨー・ジョーヌを着た選手は不意の落車に巻き込まれないように、チームメイトに囲まれ、常に風除け状態で走る。牽制する選手や風除け選手は体力の消耗が激しく、下位成績に甘んじることが多い。ほとんどの選手はマイヨー・ジョーヌやリーダーのために全てを犠牲にして走っている。
● 独走集団と追走集団
プロトンから逃げて独走態勢に入った選手Echappéeにテレビのカメラが集中しスポンサーには貴重。まったく独りのこともあるが複数の選手が力を合わせて独走集団を構成することが多い。プロトンから抜け出て独走集団を追走する集団poursuivantsの動きも油断できない。長かった道程もあとわずか…。凱旋門をバックにシャンゼリゼ大通りを周回する。
Difficultes —
テレビの前にクギづけ、今年のヤマ場たち。
第10区間 (7月10日)
ダックス—ルルド・オタカム間205km。ゴールのオタカムまで急勾配 (8.5%) が12.9km続く。
第12区間 (7月13日)
カルパントラ—ヴァントゥー山149km。ヴァントゥー山頂上まで魔の登り (7.6%)が、なんと21km続く。風が強いことでも名高い。
第14区間 (7月15日)
ドラギニャン—ブリアンソン間249km。2000mを越える峠を三つも越える。
第15区間 (7月16日)
ブリアンソン—クールシュヴェル間168km。この日も2000m級の峠を二つ越えたあと、17.3km続くクールシュヴェルへの登り (8.1%) が難所。
第16区間 (7月18日)
クールシュヴェル—モルジン間196km。休息日のあととはいえ、最後にジュ・プラヌ峠の登り(8.4%) が控えている。
第19区間 (7月21日)
フリブール—ミュルーズ間59km。アルプスの疲れが残っている時の個人タイムトライアルはつらい。この日で逆転の可能性もあり。
Armstrong —
アームストロング選手も今年は苦戦しそうだ。
● 優勝候補
最近のツールは毎年、優勝者が変わっている。昨年は、ガンを克服して復帰したアームストロング選手が優勝して、全世界の感動を呼んだ。ただ、厳しい見方をすれば、本命選手が薬物疑惑の余波で出場しなかったから、ともいえる。98年優勝のパンターニ (イタリア)、97年優勝のウルリッヒ (ドイツ)が出場すれば、アームストロングもうかうかしていられないだろう。スペインのエスカルティンも98年4位、昨年3位と順位を上げてきているので怖い存在。無冠の天才といわれて久しいのが、ツーレ (スイス)。しかし、昨年は実力を発揮し2位に。当然、今年は表彰台の頂点を狙ってくるだろう。
2000年復活?天才と評されるウルリッヒ選手。