頭上注意!でも、居心地よし。

 オヴニーに記事を書いている (仙) もオヴニーで物件を見つけた。ここに住んで4年になる。オヴニー関係者の家を取材すると〈ネタ切れ〉と思われてしまいそうだが、どっこい、話題豊富な住居であるからこその大抜擢である。
 午後5時ごろが「部屋が黄金に染まって、一番いい時間」だと言うので、それを目指して行く。生成り色のカーテンを通して部屋全体にゆきわたる夕方の光はあたたかい黄金色、卓上に出された冷えたビールと同じ色だ。生まれも育ちも新宿という都会っ子の (仙) には郊外に住むことなど考えにも及ばない。11区。カフェ、古着屋、写真スタジオ、午前2時まで開いている食料品店などが並び、人の絶えない通りに面した建物。エレベーターはなく、螺旋階段を6階まで登る。踊り場にはトイレがあり、住居内にトイレのない住人はこれを利用している。郵便受けには、国籍不明の名前がたくさん。「階によって違った匂いが漂う」この建物は、階段を登りながらエジプト、旧ユーゴスラビア、アフリカなどそれぞれのお国の料理の香りが楽しめる。ほかの住人に食事やお茶に招待されたり、お隣と合同パーティーを開くなど、ご近所付き合いも盛んだ。
 屋根裏部屋なので天井/壁が斜めになっている。比較的大柄な (仙) は、何回頭をぶつけたことだろう。公的には天井の高さが1メートル80センチ以下の部分は面積に数えないそうだが、そうするとこの家はおよそ18m2ということになる。でも床面積は34m2あり、「実際に家のなかで活動する範囲は、面積に含まれない部分」だという。なるほど、仕事、食事、読書、そして睡眠、入浴までもが、斜め天井が低くなった部分で行われている。その白い天井を這う梁が、趣があっていい。梁には刃物で彫ったようなキズがあるが、「ここは昔は家具付きのホテルだったから、宿泊客が日数を数えるために彫っていた」ものだそうだ。このアパートもいくつもの小さい部屋に区切られて客を泊めていた、とか。
 この屋根裏住まいに、昨日、〈住居改善協会〉の人たち3人がやって来た。住居の状態をチェックし、修復が必要な箇所を指摘し、修復の資金援助が必要な人には手続きをしてくれる。協会の人たちは〈流し台の前の床は木ではなく、タイル張りにしないといけない〉ことや〈トイレと風呂場に換気扇を設置しなくてはならない〉などと書類に記入。さらに家賃、 (仙) の収入、大家さんと仲が良いか、なども質問していった。「でも、あちらこちら直したって、意味がないかも。建物自体が相当傷んでいるから」と(仙) が言うのも当然かもしれない。一昨年は、2階の床が落ちたのだから。とはいえ彼女の住まいは、頭上さえ注意すれば斜め天井が魅力的で居心地のよい、羨ましいスペースなのだ。(美)

 

住環境改善に尽くす。
 
(仙) の家に来た3人は〈住居改善協会の人〉と書いたが、これは〈PACTE DE
PARIS〉のこと。快適な住環境を整えるために40年以上も前から活動している協会だ。例えば、暖房、トイレ、シャワー等を設置したい、建物壁面を磨い
たり修繕したい、という場合、状況に応じて施すべき工事のアドバイスをしたり、工事会社を斡旋したりする。工事費を貸りたり、援助が必要な人の場合には必
要書類を作成し、パリ市、イル・ド・フランス地方圏議会、家族手当公庫などに申請を行ってくれる。
 現在、OPAH (Operation
Programmee d’Amelioration de l’Habitat)
というプログラムが推進されていて、指定された区域内の老朽化の進んだ建築物を一戸一戸訪問し、住居の状態、住人の職業の有無、収入、家族構成、年齢など
を調査し、住居改善を目指す。1区域の改善に3~4年をかける。1880年代くらいに建てられたといわれる (仙)
が住んでいる建物は、現在その指定区域のなかの指定建造物というわけだ。近くにある協会のOrillon /
Oberkampf区域担当オフィスへ行ってみたら、(仙)
宅へ訪問調査に来たアンリさんが、丁寧に協会の活動を説明してくれた。彼らなら親身になって相談にのってくれそうだ。(美)