一騒動の後、命からがら江戸を抜け出したと思えば、次の宿屋では盗みにあい、スッポンや蛇に悩まされ、盲目者をだまして川を渡った罰があたったのか、幽霊や狐に脅える羽目に…。怖いもの知らずでお調子者の喜多さんともう少し分別のある弥次さんのコンビは、大洋に浮かぶ島国日本で生まれたドン:ぢキホーテとサンチョ・パンサ。あるいは、ずっと後に登場するローレルとハーディーや、アステリックスとオベリクス、または漫才のボケとツッコミと何ら変わりがないことに、観客たちの笑いを聞きながら気づいた。「全世界共通で時代を超えたユーモアのセンスがある舞台にしたかった」という劇場の創立者でこの舞台の作者、演出家、主演のひとりを兼任するニコラ・バタイユの言葉どおり、たしかにいつの世でもどこでも通用する笑いは存在する。だが、問題は「どう見せるか」で、歴史もの、しかも外国作品だとヴィジュアルとシンプルさが重要な役割を果たす。「まゆつば」「三行半」「人に化ける狐」など、フランス人には馴染みの薄い日本の習慣や民間信仰は、舞台で説明できないのならば、別に説明文を配布するなどの気配りが欲しいし、また、落語ではないのだから、小道具を使わずにパントマイムだけ、というのも少し寂しい。最後に、役者数が少ないから仕方がないのだろうが、お多福もどきの生気を欠いた面をかぶるのもいただけない。老婆心から注文が多くなってしまった。はじめのアイデアはいいのだから、もうひとふんばり。(海) ●Le chant du crapaud 演技を続けるより長年の趣味である釣りに余生を捧げるのだ、と宣言する80歳の名優リュシアンを前に、彼を主役にした『リア王』で来シーズンの幕を開けようと目論んでいた劇場幹部は困惑する。 このような「演劇についての演劇」では、自分たちのよく知っている世界を扱うからか、役者たちは演技だということを感じさせないほど自然な立居振舞を見せ、舞台上の居心地の良さは、当然、客席にも伝わってくる。ルイ=シャルル・シルジャックの書き下ろしで、演出はジュリアン・ネグレスコ。 *Theatre de Poche Montparnasse : 01.4544.5021 ●La chambre bleue マックス・オフュルスやロジェ・ヴァディムが映画化したアーサー・シュニッツラーの戯曲『輪廻』からヒントを得て、イギリス人劇作家デヴィッド・ヘアが現代劇 “The blue room” を書き、フランス人役者のミシェル・ブランがこのフランス語版に書き直した。 10人の10の出会い、恋愛、別れが描かれる。ダニエル・オトゥイユとマリアンヌ・ドニクールは、そつのない演技を見せるのだが、2人とも5役も演じるからか、それとも演出(ベルナール・ミュラ)が悪いのか、メリハリに欠けぱっとしない。舞台一番の収穫は美術で、大きなパネルを上下左右に動かしながら、10の「青い部屋」を創ってしまったのは見事。3/12まで。 *Theqtre Antoine – Simone Berriau : 01.4208.7771 ●Le moment du plaisir 全裸でベッドに横たわり読書を楽しむ侯爵夫人のもとへ夜這にきた伯爵は、夫人とベッドを共にするという夢をかなえるのに四苦八苦する。 客席にせりだす天蓋付きの巨大なベッドの両端に、かつらをかぶり化粧したまま、薄絹一枚に身を包む男と女が座り込み延々と会話を続ける。宮廷の噂、自分のアバンチュールなど、話の種は尽きない。友達は、クロード・クレビヨンの書いた18世紀フランス語の響きの美しさに感動していたが、私は、セックスの前までやまないフランスのおしゃべりの伝統に感心した。セクシーな侯爵夫人エロディー・ピアチェンティーノとエロチックな伯爵ジャン・ダルリ (演出も) のくれた 1時間の「喜びの時」に感謝。 *Theatre d’Edgar : 01.4279.9797. |