「陰核切除」裁判。


 ユダヤ教徒と回教徒の宗教的儀礼として男児に対して行われる割礼circoncisionに相当する、女児の陰核(クリトリス)またはその一部切除excisionの慣習は、現在もマリ、モーリタニア、セネガルの特に農村地帯で引き継がれている。これらの国からの移民家族の多いフランスにおいてもその慣習は、女子の伝統的な結婚条件として守られ、暗黙のうちにフランス在住の女性施術師によって陰核切除が行われてきた。
 フランスでは、1984年に初めて陰核切除が傷害罪とみなされ、91年に一人の施術師が “15歳未満児に対する傷害罪”で執行猶予1年、93年に女児の陰核切除を頼んだ母親が1年半の禁固刑を受けている。
 マリ人の両親を持ちフランスで生まれ育った24歳のマリアトゥさんは、8歳のとき母親に予防注射を受けに行くのだと言われ、彼女の妹とともにパリのあるアパートに連れていかれた。その一室で2、3人の同胞女性に手足を床に抑えつけられて、グレウ施術師(53歳)にクリトリスを切除された。「そのとき激痛に耐えながら”なぜ ? なぜ ?”と泣き叫んだが、立ち合った女性たちは無言だった」とマリアトゥさんは、2月3日から2週間続いたパリ重罪院裁判の原告席で語る。
 マリアトゥさんは、自ら”野蛮”と見なすこの慣習の被害者として初めて、施術師と彼女の母親を含む同胞女性26人、及び父親たち3人を告訴した。同時に、陰核切除という慣習そのものをフランスの法廷に突き出したのである。被告者たち全員が「フランスで陰核切除が禁じられているとは知らなかった」「フランス人にとっては傷害だろうが私たちにとっては昔から伝わる慣習」と証言する。人類学・精神医学者エルリッチ氏は、「この慣習に従わない者は彼らの社会から村八分にされる」とも述べている。
 マリアトゥさんと彼女の妹の陰核を切除したグレウ被告は、1994年重罪院裁判による執行猶予付懲役1年の判決を受けたにもかかわらず、それ以降も切除手術を引き受けていたため、2月16日、女児48人を手術したことで、傷害罪としては最も重い懲役8年の判決を言い渡された。また、マリアトゥさんの母親は懲役2年、他の被告たちには執行猶予5年の刑が下った。
 フランスでは徐々にではあるが、対陰核切除への意識が芽生え始めている。事実、マリアトゥさんのようにフランスで生まれ育った二世代、三世代は、親たち移民一世が固守する慣習にどうして屈する必要があるのか、と考えるのだろう。法律を勉強しているマリアトゥさんは、将来司法官になるのだという。
 代々伝わる陰核切除の慣習をマリアトゥさんは異郷で告発したわけだが、”郷に入っては郷に従え”の諺が意味すること以上に根源的な、人権につながる問題を提起したといえよう。

(君)


97年現在の陰核切除推定総数

1300万人 アフリカ・中近東

3~4万人 フランス

*世界保健機関調べ

 

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