80年代後半は、映画に新しい波が押し寄せてきた。東欧からはカウリスマキ、キエシロフスキ、クストリッツァ、中国からはシャオシエンやイーモウ、アメリカからは欧州映画に大きな影響を受けながら新しい映画感覚を創り出したジム・ジャームッシュ…。そのジャームッシュの全作品が2月9日まで上映されている。
学生時代に撮った初長編『Permanent Vacation』は、ニューヨークで生きる16歳の少年が主人公。都会風景の描写やミニマルなセリフの効果などはすでにジャームッシュ的。『Stranger than paradise』は、どこかギクシャクした3人の若者の姿がワンシーン・ワンショットを多用したカメラでフォローされていく。生活の余白を淡々と撮っているようでいながら、彼独自の映画手法で心の放浪を的確にキャッチ。主演のジョン・ルーリーが作曲した音楽も秀逸だ。『Down by law』は、ロベルト・ベニーニ、トム・ウェイツ、ルーリーのトリオから不思議なユーモアがにじみでるロード・ムービー。白黒の映像が冴え、スクリーミン・ジェイ・ホーキンズが歌う「アイ・プッタ・スペル・オン・ユー」がルイジアナの風景に重なる。『Mystery Train』は、工藤夕貴と永瀬正敏など3組の異邦人がメンフィスのホテルに泊まる。エルヴィスの亡霊の影が横切り、夜に優しさが匂う。『Dead Man』は、死を体内に抱き込んだウイリアム・ブレイク(ジョニー・デップが熱演)の旅。この死者の旅を導くインディアン”Nobody”の白人文明批判が痛烈だ。音楽はニール・ヤングのギターソロ。『Year of the horse』は、そのヤングとクレイジー・ホースのツアーを追ったドキュメンタリー。一ファンの熱い心が脈打っている傑作。(真)
*Grand Action : 5 rue des Ecoles 5e
01.4329.4440