住めば都とは言うけれど、実際は本当に気に入った住居を見つけるのはなかなか難しい。大学院生のデルフィーヌの場合も、6年間の間に5回もの引越しを繰り返し、最近やっと自分の住むべき場所というのを見つけたようだ。
故郷のル・マンからパリにやって来た当初は、パリの地理にも疎く、両親が見つけた16区のアパートに落ち着いた。大学からは近くて便利だったものの、16区特有の変な意味でのスノッブさが鼻についてしまい、引越しを決意。治安のいい地域で生活してほしいという両親の希望をよそに、夜遊びするには便利な11区に移った。けれども16区から出ることばかりに気を取られ、肝心のアパートの吟味を怠ったため、ほとんど日の当たらない寒い部屋で、飼い猫と肩を寄せ合って一年間過ごす羽目になってしまう。次に移ったのは、レピュブリックにあるアル中の女性のアパートの一部屋。毎日お酒ばかり飲んでいる大家にも一年間は耐えた。同じように部屋を借りていた同居人が出るのをきっかけに、今度はオ・ぺールとしてピガールに住む家庭に入る。息子の幼稚園の送り迎えとベビーシッターの仕事を受け持つ代償として、小さい屋根裏部屋と食事がまかなわれた。生まれて始めて両親の資金援助なしで生活ができ、自立した一年が過ごせた。
そして、彼女が3日前に引越ししたアパートは、狭い階段を昇った屋根裏にあって、18m2とやたら狭い。でも、南向きの2つの窓が部屋を明るくしてくれるし、沢山棚があるから収納にも困らない。
彼女のこの新しいアパートは、ピガールのすぐ近くのサン・ジョルジュ界隈にある。彼女いわく、9区はクリシー広場からバルベスまでのセックス地帯、シックなサン・ジョルジュ界隈、デパートと銀行が集まった界隈、ユダヤ・レストランが軒を連ねる界隈の4つに分けられる。(上の図参照)サン・ジョルジュ界隈は、劇場や美術館も多く、文化度が高い。セックスショップでギラギラしているピガールから数百メートルの所とは思えない、落ち着いた雰囲気がある。それでいて若い人が楽しめるカフェやバーも充実している。6区に庶民的な活気を加え、11区にある流行のカフェ・バーを持ってきたような所だ。ただし、流行を追うのに嬉々としているミーハー族は見かけないのがよい。
「サン・ジョルジュは自分が自然体になれる場所。」というデルフィーヌの、新しい生活がスタートした。 (章)
● Au General La Fayette引っ 越したらまず、自分の行きつけのカフェというのを見つけ るのがパリジャン的な暮らし方。ギャルソンと仲良くなってお けば、留守中に鍵を預かってもらったり、ツケを頼んだりもで きる。普通 はアパートから一番近い場所を選んだりするけれ ど、デルフィーヌの場合、自宅から10分ほど歩いたところにあ るこのビール・バーを利用している。 朝は10時から閉店の午前4時まで、フル回転で営業している 便利な店。ピカピカに磨かれた、年代物の木のカウンターも素 敵だ。12種類の生ビールと、100種類以上の世界中のビールが 揃っている。
朝の通勤時の喧騒、午後の落ち着いた雰囲気、そして夜の賑 わいなど、いくつもの違った顔を持つバー。
*52 rue La Fayette 9e 01.4770.5908