ヌイイ・シュル・セーヌに住む芸術家 ハンスさん流のシンプルで贅沢な暮らし

彫刻家ハンス・マルクスさんは「市に援助を求めた最初の芸術家は僕」と語る。インド生まれイギリス育ち、若いころ世界各地を旅行、石油ショックを機にワインがうまく美女の多い国フランスに落ち着く。その後パリ、ノルマンディーなどを点々としながら陶芸と彫刻に開眼、パリで開いた教室の生徒に誘われヌイイにたどり着き、早速市に援助を願い出たのが1980 年代半ばのこと。この時からハンスさんはヌイイ在住の芸術家として、陶芸と彫刻を教えながら自分の創作を続けている。
「市内で土の上に建つ家に住むのは僕だけ」というハンスさんの小さな家は、立派で瀟酒な建物が並ぶ通りから少し奥まった場所にある。「昔ヌイイにはこんな家がたくさんあった。表通りに住む金持ちの使用人や労働者たちが裏通りに住んでいたんだ」。市から安く借り受けたこの家、電気も水道も通っていなかったのをハンスさんが改築した。近所の老人ホームが捨てた揃いの椅子、一枚板の立派なテーブル、コンピューターの机…室内家具のほとんどは拾ってきたもの。「この街では捨てる人は多くても拾う人は皆無に近い」。 家の前には廃墟と化した長屋が傾いて建っている。「崩れてしまう前に実現したいことがある」。それは、この長屋をヌイイの芸術家村または芸術を介した交流の場にすること。夢実現のためにハンスさんはハイソな住民たちや企業との交流を大切にしている。「ときどき開くソワレに来る住民の中には『素敵、田舎に来たみたい!』と感動するマダムがたくさんいるけれど、僕の作品を見ると『あなたの彫刻は家のサロンにはちょっと合わないわねぇ』とたいてい付け加えるんだな。まあ作品を売るのが目的じゃないから…」。芸術家と住民たちとの温度差はまだあるけれど、ハンスさんは前進を続ける。「富や名声より自分が何を表現したいかを見極めることが大切」。庭でアブやアリを観察し、鳥の声で目を覚まし、大理石と美しい光を求めてトスカーナ地方へ車を走らせ旧友たちと交流を温める…これがハンスさん流のシンプルで贅沢な暮らし。(海)

※ハンス・マルクスさんのサイトは
http://www.hans-sculpture-paris.com/


パリとラ・デファンスをつなぐav. Charles de Gaulleにあるサルコジ元市長から注文されて作ったハンスさんの彫刻作品