● JUNK MAIL
郵便局で働くロイは配達の途中に見つけた鍵でリンのアパートに忍び込む。内緒で作った合鍵でアパートに通ううちに、次第にリンに惹かれていくロイは、彼女が三面記事を飾った暴力事件に巻き込まれていることを知る。
オスロへ観光に行ってもたぶん足を踏み入れることのない汚い路地、トンネルの壁にぽっかりあいた穴、すすけたアパート、さびれたバーなどを徘徊するロイのリンへの恋は、成就したら人間になれる、とお姫様に憧れるねずみの恋のように哀れだ。ただ卑屈さや惨めさを原動力にロイはリンを助けようとし、ある瞬間から頼もしい正義の味方に変身する。カフカ風の人物描写に成功した監督はデビューしたてのパル・スレトーヌ。 (海)
● La buena vida
「美しい人生」という一見ロマンティックで無意味なタイトルのダヴィッド・トルエヴァの監督第一作は「処女」作というにふさわしい。ゲーテの書いたウェルテルと、ドワイヨンが映画化したウェルテルを足してスペインに持っていき、童貞喪失をストーリーの軸にした、といっては単純すぎるかな? とにかく童貞喪失という十代の一大イベントが人生の大きな転換期と重なった文学少年トリスタンのお話です。
映画の中でトリスタンと友人が演じるディドロ作の“Jacques le fataliste”がこの作品の文学・哲学的考察を深める。安直で性的に見えるプロットはこうして「生」的主題に変容する。「男(女)」になった夜にどんな夢を見たか…
そして、このスペイン人の新人監督が処女作を完成させてから、どんな夢を見ているのか。ラストのシャルル・トレネの歌にのって、美しい人生とはそこで語られる。 (岳)
● Boogie Night
70年代から80年代になって何が変わったのか。ポルノ映画も全盛時代の映画館上映作品からビデオの作品へと流れが変わっていった。たまたま33センチの巨根を持っていたために、ポルノ・スターになってしまったダーク・ディッグラーの浮き沈みを通して、当時の人間模様が生き生きと描かれていく。売れっ子監督役を演じるのは、自身ポルノ映画に出ていたという噂のあるバート・レイノルズ。ダーク役のマーク・ウォールバーグも、ダークのパートナー役のジュリアンヌ・モーアも哀しいし、撮影スタッフを演じる脇役もホンモノっぽい。カントリー&ウエスタンの世界を通じて時代を描いたアルトマンの名作「ナッシュビル」を思い出した。監督は、確かこれが二作目の若手ポール・トーマス・アンダーソン。「主役には、当初レオナルド・ディカプリオを予定していた」というのは本当かな。肝心の33センチはラストにチラリと登場するけれど、ちょっと短い気もする。
● 1 chance sur 2
大好きなパトリス・ルコントなので、ドロン、ベルモンド、パラディという豪華三大スター顔合わせのアクション映画にもかかわらず観に行った (吉)さん。「さすがルコントで、ウェッ…と気持ちが悪くなる一歩手前でやめているので、思ったより楽しく見られたし、ドロンとベルモンドも楽しそうに演じているし、、アクションだって恥ずかしくない。でもパラディは、ますます “どーでもいい” 女優になってしまった」
●ジャン・ユスタッシュ特集
Les mauvaises frequentations、Le pere Noel a les yeux bleus、Les photos d’Alix、Mes petites amoureuses、La maman et la putain「ママと娼婦」、Une salle histoire が上映される。いずれをとっても見逃せない傑作ばかり。ユスタッシュは、ありきたりの現実が隠している《虚構=ドラマ》を、素人に演じさせたり、あるいは俳優の自然なキャラクターを引き出しながら、スクリーンに現出させた。同時録音で、街のにぎわいや室内の沈黙ごとキャッチされた会話は、そこに立ち会って耳を傾けているような存在感がある。そして僕らの生き方が引きずっている何げないユーモアをとらえる名人芸。彼独特の世界は、一度触れると、僕らの心から去ることがない。
*Saint-Andre des-Arts : 30 rue Saint-Andre des-Arts 6e 01.4326.4818
●これから封切られる作品
– その男凶暴につき ( 監督 : 北野武)
– Jackie Brown (監督 : Q・タランティーノ)
– Le ballon d’or (監督 : シェイク・ドゥクレ)
– `La lecon de tango
(監督 : サリー・ポッター)
– Taxi (監督 : ジェラール・ピレス)
– Comme elle respire
(監督 : ピエール・サルヴァドーリ)