Sur la Route du poisson
雨の朝、 馬の蹄(ひずめ)の音が響く。フランス北端ブローニュ・シュル・メールの漁港からパリのレストランに魚を配達する一行だ。脚のがっしりと太い5頭の馬が、馬車を曳いてパリの町を走ってゆく。
かつて、北の漁港からパリへと魚が運ばれた「魚の道」があった。13世紀頃から、鉄道が使われるようになる1847年頃まで、300kmの道のりを 「駅 relais de Poste」でほぼ2時間ごとに馬を交替させながら、18時間から24時間で新鮮な魚を届けたという。ポワソニエール(魚屋)大通りから、〈パリの胃袋〉レアールまで、冬はもちろん、夏も魚をリレーした。
人間の労働を支えてくれた力持ちの輓馬(ばんば)だが、鉄道や自動車に仕事をとられると飼育する農家も頭数も減るばかり。品種によっては絶滅が危ぶまれるという。そんな状況から輓馬を救い、町なかにも輓馬を導入しようと立ち上がった有志たちが、この秋に400頭の輓馬が参加する「魚の道 Route du poisson」24時間レースを計画中。この配達はそのプレイベントだ。道を急ぐバイクや自動車に戸惑いながら、馬たちは魚と人を乗せて走る。ちょっとスローな魚の配達についていった 。
一行はシャンゼリゼからコンコルド広場、サンジェルマン大通りからシュリー橋へ。そこから右岸に戻り、レストランLe Sullyへ魚を配送。料理長ヴィダルさん(写真下2枚目)は「昼に届くのでは遅いなぁ。でも今朝は別の魚を仕込んだから大丈夫」と、笑って大きなタラを受け取った。パリ到着が2時間遅れたため、配達も遅れたのだ。そんな事情で、道中、ジラルダン海洋大臣やイダルゴ=パリ市長らと会う予定だったのがキャンセルに。
輓馬の消滅を防ごうと「魚の道協会」を立ち上げ、この配達を計画したのはマチュー・チボーさん(上の乾杯の写真中、右端)。欧州最大規模の輓馬ラリー「魚の道」が2012年から開催されなくなったことを知り復活のため奔走した結果、9月に再開できることに*。「20世紀初頭、馬は自動車によって町から追い出されましたが、今後はその逆かもしれません」。パリ市長には馬タクシーの導入を提案したいそうだ。(六)
*「魚の道」24時間レースは、9月25日にブローニュ・シュル・メールを出発、26日パリはシャンゼリゼにゴールする。優勝チームはその後、エリゼ宮に魚を献上しに行くのだそう。
馬500頭、人間1400人が参加する欧州最大規模の輓馬ラリー。詳細は9月15日のオヴニーをご覧ください。